短い夢@

□メリークリスマス
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「納得いかない。」
むすっとした顔で名無しさんがそう言うと、

「それでいくと、オレも納得いかねぇ。」
とサッチが返した。

「だったらっ!」

「しかたねぇだろい。決まっちまったもんは決まっちまったんだ。」
抗議をしようとした名無しさんをこれまた眉間に皺を寄せたマルコが制する。

「だって、誰も幸せになれないじゃんっ!私も嫌だし、みんなだって嬉しくないしっ!」

「…ま、認めんのも反論すんのも気が引けるけどよ。おまえの気持ちはわかるぜ。」
苦笑いのサッチに名無しさんはさらに続ける。

「そもそも!なんで私が『女子』カウントされて、ナースと一緒になるわけ?」

「ま、そこは『生物学的に』女であるってところからだなぁ…。」

「いやいやいやっ!ナースたちにいいように言いくるめられたんでしょ?で、結局私がくじで外れてこうなるって、絶対に何か仕組まれてるよっ!」
サッチとマルコが顔を見合わせる。

「唯一幸せなのは、ナース達ね。っていうか。」
名無しさんがギロっとサッチを睨む。

「そもそも。ナースたちが嫌がるようなコスプレ用意するって、どういう神経してんの?セクハラじゃん、セクハラっ!」

「確かにな。」
腕を組んで、マルコがサッチを横目でにらむ。

「それで嫌がられて、こっちにとばっちりが来たんじゃないっ!」



そう。それは今から3日ほど前のこと。
サッチがナース長に「今年のクリスマスパーティーでこれを着てくれ!」と持ってきた衣装が発端だった。いわゆる「サンタコスプレ」なのだが、超ミニのスカートに、なぜか黒い網タイツ。胸元も結構ばっくり開いていて、どう見たってその筋のお仕事の人たちが着るとしか思えないもの。ナース長はやんわりと断ったものの、食い下がるサッチに根負けして、「じゃぁ、着てくれる子がいるか聞いてみるわ。」と答えたが、結局OKしてくれるナースなど一人も現れず。
そんな話を飲んでいる白ひげの前でしたもんだから、その衣装のきわどさなど全く知りもしない白ひげの「そんなもん、くじ引きで決めりゃいいじゃねぇか。」の一言に「オヤジの威を借るサッチ」が悪乗りしたために、もはやどうにも断りにくい状況を作ってしまったのだ。
そんなやり取りを横目に、自分は全く関係ないと酒を飲んでいた名無しさんの耳に飛び込んだのが「くじ引きなら女全員でやりましょう。」というナース長の発言だった。モビーにはナース以外の女は名無しさんを含めた数名が乗っていた。戦闘員として、男たちと全く変わらない生活をしている彼女たちを女扱いするものはほとんどいなかったから、その場でも「えーっ!こいつらのコスプレなんて見たくねぇよ!」なんてヤジが飛んだものの。絶対数が少ないものだから、誰もが「どうせナースが当たるだろう」くらいにしか思っていなかったのが、仇になった。皆の前で引いたくじで、見事に名無しさんが「あたり」を引いたのだ。



「あの状況じゃ、何も小細工はできねぇよい。運が悪かったとあきらめろい。」
渋い顔をしてそう言ったマルコに、

「言い出しっぺのサッチが着ればいんだよ。」
と名無しさんがぼやいた。

「そんなことしたら、それこそ全員が不幸のどん底だろ。」

「きっと大爆笑だよ。中途半端に私がやるより絶対いいって。」

「…そこまで自分を卑下しなくてもいいんじゃね?」
サッチのフォローなんだかそうじゃないんだかわからないようなコメントに名無しさんは思いっきりサッチのほっぺたをつねった。
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