短い夢@

□白ひげ海賊団のリスク管理
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いつまでたっても迎えに来ないマルコに痺れを切らせて直接部屋に行くと、案の定、マルコはベッドで寝ていた。

「マルコっ!」
ぼふっと布団の上からマルコの背中を叩くと

「んん…。」
といううめき声。

「ちょっと!いつまで待たせるつもり?もう昼過ぎだよっ!」

「あ…。」
布団の中から出てくる様子のないマルコに、正直なところ私はもう諦めていたのだが、やっぱり素直に引き下がるのはムカつくから、かぶってる布団を引っぺがしてやった。

「どーせまた一番隊の奴らと遅くまで飲んでたんでしょっ!なんで毎回毎回私と約束があるのに二日酔いになるわけ?」
布団を剥がされたマルコはゴロンと寝返りを打つが、目は閉じたまま。

「しかたねぇだろい。短い上陸期間であれもこれも予定を入れるとこうなっちまうんだよい。あ…。あと一時間寝させてくれよい。」
私は大きくため息をつくと、

「いいよ、もう。この前そう言って結局三時間くらい寝てたじゃん。」
と言って、立ち上がった。

「船に戻ってくるのかい?」
背中にかかる眠そうな声に

「そのつもり。」
とだけ返事をすると私は一人で街に繰り出した。




「何なのよっ!毎回毎回っ!」
私は足元の小石に八つ当たりをすると、大股で繁華街に向かって歩いて行った。
我が白ひげ海賊団一番隊隊長不死鳥マルコは、その賢さと経験からどんなに多忙でも確実にオヤジの要望に応えるだけでなく、荒くれ者が集うこの大船団をその実力と人望で取りまとめる優秀な男だ。オヤジだけでなく、仲間の依頼も快く受け、様々な難題もスマートにこなしていく。きっと仲間たちはみなそう思っているだろう。私だってそうだった。寝るときだって、髪の毛も乱れず、まっすぐ直立した状態をそのまま横にしたような恰好で寝てるんじゃないの?くらい、「常にきちんとしてる」イメージだった。だが、つきあってしばらくすると、表向きは「スマート」なマルコは、裏ではそれなりに慌ただしかったり、脱力していたり。意外にも「人間味溢れる」男だった。ちょっと驚きはしたものの、私としてはそれを知ったからってマルコに対して失望したりはしなかった。むしろ、いろいろ大変なのに、それをみんなに感じさせず、一生懸命期待に応えようとしている姿にますます惚れた。だから、微力ながらもいろいろ手伝ってきたし、睡眠不足で疲れているようなときは、そのままゆっくり休息がとれるよう、私なりに配慮してきた。

「隊員と飲むのも大事だってのはわかってるけどさぁ…。」
一番隊の隊員たちと飲むのは当然だが、それにとどまらず、人気者のマルコと機会があれば一緒に飲みたいとか、話をしたいと思っている奴らはモビーにたくさん乗船している。だから、マルコは頻繁に飲みに誘われるし、逆にマルコ自身もそういう場で信頼関係を構築しておくことが船の上での集団生活のみならず、お互いに命を預けて戦う同士には重要なことだと認識しているから、極力誘いを断らないようにしているのだ。
とは言え。

「もう少し、彼女を大事に扱おうよ…。」
大きくため息をつくと、取り敢えず私は最寄りのショップに入って服でも物色することにした。

最初こそムカついてはいたものの、どうやらマルコは船で待っていてくれるようだったし、さすがに今晩は一緒にご飯を食べて夜も一緒にいられるだろうと思った私は、気を取り直してショッピングをしていた。思いの外いい買い物ができて機嫌よく店から出てきたところで、小腹のすいた私はどこかでお茶でもしようかと通りを見渡した。気軽に入れそうなカフェでもあればと思ったのだ。だが、そこに見知った人影をみつけて、私は動きを止めた。

「マルコ?」
黄色いパイナップルのような頭と紫のシャツ。遠目からでもわかる引き締まった後ろ姿に声をかけようとした私は、横にいる人物を見つけて思いとどまった。

「あれって…。」
横にいるのは最近入った新人のナースだった。とっても可愛らしい子だったから、男たちが大騒ぎをしていたのを覚えている。制服を着ていない彼女はいつもにまして可愛らしく見えた。しかも、はにかむように頬を染めて微笑んでいる。その視線の先にいるのはマルコだ。
ナースの警護もかねて、街での買い物に隊長やそれなりに腕のたつ奴が駆り出されることはよくあったから、二人を見てマルコが浮気をしているだなんて発想は全く私の頭には思い浮かばなかった。でも、約束をすっぽかされた上に、わざわざ部屋まで行っても全く起きてくれなかったマルコが、別の女と一緒にいるのを見るのは気分のいいものではなかった。声をかけるべきか、ここは見なかったことにしてやり過ごすか迷っていると、その可愛らしいナースが店先に咲いていた花を指さして何かを言った。その方向を見るためか、マルコが振り返る。彼女が何を言ったのかわからないが、指をさした先を確認したマルコは、さわやかな笑顔で彼女に話かける。
可愛らしい女の子と、そんな彼女に優しく微笑むマルコ。茫然とそんな二人を見つめていたことに気が付いた私は、いたたまれなくなってそんな二人に背を向けた。

「随分と、楽しそうじゃない…。」
私と一緒にいるときは、「早く買い物をすませろ」だの「腹減った」だの、いつもだるそうにしているマルコが可愛らしいナースにはさわやかな笑顔を振りまいているのだ。

「何だよ、この違いは。」
私が誘うと面倒臭そうにするくせに。何とか一緒にでかけられても文句しか言わないくせに。
カフェに寄ろうなんて気持ちが完全に失せてしまった私は、一旦モビーの方へ足を向けた。だが、どうしてもこの後マルコと顔を合わせて平常心でいられる気がしなかった。それに、一緒に晩御飯を食べられると期待して待っていても、あの子と食事を済ませてから戻るかもしれない。あの子と一晩過ごすようなバカな真似をすることはないとは思うものの、そのまま夜遅くまで待ちぼうけを食らう可能性もゼロではない。私はモビーに向いていた足の方向を変えると、そのまま島で宿をとることにした。
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