短い夢@

□白ひげ海賊団のリスク管理
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そう言って視線を上げると、なぜか隊長たちが私ではなく、もっと遠くを見ているような気がした。不思議に思って振り向くと、すぐ後ろにマルコが立っていた。ちょっと驚いたけど、私は気を取り直してマルコに話かけた。

「やらなきゃならないことがたまってるなら手伝うよ。マルコが隊長なことに変わりはないから、そこは遠慮しなくていいから…。え?」
俯いたまま、マルコが数歩私に向かって歩いてきたかと思うと、ぐっと腕を掴まれた。

「好きだ。」

「え?」

「好きなんだよい。」
気が付けば私はマルコに抱きしめられていた。

「おまえがいねぇと何にもやる気が起きねぇ。ベッドから出る気がしねぇ。飯も味がしねぇ。おまえがいねぇとダメなんだよい。」

「マ、マルコ?」

「おまえといるとつまらねぇんじゃねぇ。疲れてるとか眠ぃとか、おまえには隠さなくていいって、気を使わなくてもいいって勝手に思っちまってた。おまえと一緒にいて我慢なんて何もしてねぇ。むしろ、完全に甘えちまってたんだよい。」
私の体に巻き付くマルコの腕に力が入った。

「もし…、オレが嫌われちまったんじゃねぇなら…。頼む、やり直させてくれよい。」
完全に頭の中が真っ白になってしまった私は、何も言えずに固まっていた。マルコはゆっくりと腕をほどくと、私の顔を覗き込んできた。

「頼む。」
ほぼ二日ぶりに見たマルコの顔は、無精ひげに目の下には隈。髪の毛もしばらく梳かしていないように見えた。かなり前に敵襲でけが人が大量に出て、徹夜続きで疲れ切っていた時より憔悴して見えた。そこで初めて私はエースの言っていた「あんなマルコ」の意味を理解すると同時に、まだすぐそばに隊長たちがいることを思い出した。慌ててそっちの方を見ると、サッチが苦笑いをしながら口を開いた。

「もう完全に愛想つかしちまったなら無理は言えねぇけどよ。もし、やり直せるなら今回は大目に見てやってくれよ。周りにいい顔して格好つけて、そのつけを全部名無しさんに回してたんだ。オレらもこいつが調子に乗りすぎねぇように監視しとくからよ。」

「後輩たちに持ち上げられて気持ちよく飲んで深酒して、で、名無しさんとの約束すっぽかすなんてことのねぇように、飲みのたんびに今回のことを思い出させてやらぁ。ま、その後輩たちもこんな情けねぇマルコに驚いてたけどねぇ。」
サッチの発言にイゾウがそう付け足すと、ビスタが咳払いをした。

「ま、決めるのは名無しさんだ。とりあえず、邪魔者は退散しよう。」
隊長たちはお互いに顔を見合わせると、私とマルコの横を通りすぎて船内へと向かって行った。その後ろ姿を茫然と見送っていると、エースが振り向いた。

「ちゃんと愛されてるみてぇでよかったな、名無しさん。」
ニカっと笑ったエースが完全に船内に消えると、

「名無しさん。」
と目の前にいるマルコが遠慮がちに声をかけてきた。
私は手を伸ばすと、そっとマルコの頬に触れた。本当は、「いきなりふられて動転してるだけじゃないの?」とか「本当に私のことが好きなの?」とか、いろいろ言いたいがあったような気がする。でも、懇願するようなマルコの眼と、隊長たちの発言に私はもう何も言うまいと思った。そのまま、無言でそっと唇を重ねると、マルコのおでこが私のおでこに触れた。マルコは目を閉じたまま

「好きだ。」
と囁いた。

「うん。」
マルコの鼻が私の鼻にあたる。私がしたようにマルコの唇がそっと私の唇に触れた。

「私も、好きだよ。」
触れたままの唇にそう囁くと、呼吸ができなくなりそうなほどにマルコに強く抱きしめられた。






「…。」
無言で手にした便箋のようなものに目を通すと、オヤジは大きくため息をついた。

「バカ息子がやっと復活したか。」

「ハハハ…。復活どころか、ここ数日分の遅れを取り戻す勢いでフル稼働してるぜ。」
オレの発言に親父の片眉がピクリと動く。きっと、またマルコの奴が名無しさんを放置しているのではと思ったのだろう。だが、オヤジの懸念を察知したイゾウがすぐに補足をした。

「名無しさんの方が事態の大きさにビビっちまって、マルコをせっついてるくらいだからな。あの二人が本気だしゃ、すぐに追いつくさ。」
それを聞いたオヤジは呆れたように頬杖をつくと、

「全く、てめぇの大事な女一人満足させられねぇような奴に、この大所帯を任せられるわけがねぇだろうが。」
と言いながら便箋を封筒に戻した。

「天下の白ひげ海賊団のアキレス腱が名無しさんのご機嫌だとは、とても外部には漏らせねぇ機密情報だぜ。」
オレの発言にオヤジは苦笑いをすると、

「おい、サッチ。しばらくは名無しさんの好物でも作って機嫌とっとけ。」
とオレに船長命令を出した。
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