長い夢「何度でも恋に落ちる」

□決意
1ページ/3ページ

お宝をたくさん乗せた船との激戦で勝利し、その日は誰もがご機嫌で飲んでいた。

「おぅ!マルコっ!飲んでっか?」
ジョッキ片手にやってきたサッチは、マルコの首に腕を回してどかっとその横に座った。

「痛ぇよいっ!飲んでるに決まってんだろいっ!」
文句をいいつつも、マルコも楽しそうだ。

「久々に大量のお宝だ!次の島でいい食材をたんまり買えるぜっ!」

「肉だ肉!しっかり買っといてくれよなっ!」
横にいたエースがそれこそ肉にかぶりつきながら言った。みんながゲラゲラと楽しそうに笑うのを見て、マルコは満足げに微笑むと、ジョッキの酒を飲み干した。

「で?最近どうだい。マルコさん?」
相変わらずマルコと肩を組んだままのサッチがそうマルコに声をかけると、マルコは無言のまま横目でサッチを見た。そんなマルコを見て、サッチはますますニヤニヤとする。

「最近機嫌がいいらしいじゃねぇか。」

「…なんだい、そりゃ。まるでオレはいつも機嫌が悪いみてぇじゃねぇかい。」

「それによぉ、いろんな奴が言ってるんだけどよぉ。」
意味ありげにもったいぶるサッチをマルコが鬱陶しげに睨む。

「最近名無しさんが色っぽくなったってもっぱらの噂だぜ。」

「へー。」
「興味ありません」とでも言うように答えたマルコにサッチはニヤリと笑う。

「で?一体どこまでいったんだよ?」

「あ?見つかると面倒だからな。上陸予定の大きな島の手前でUターンしたよい。」
近くにいた一番隊員が注いだ酒を飲みながら、涼しい顔をしたマルコがそう答えると、一方のサッチは思いっきり不満そうな顔をした。

「面白くねぇよ、マルコ。名無しさんとの関係はどこまで進んだって聞いてんだよっ!」

「どこまでも何も。オレが隊長であいつは隊員だ。」

「それだけじゃねぇだろ?なんで名無しさんの部屋に行ってんだよっ!」

「そりゃ、他の隊員に用があるときは男部屋に行きゃいいが、名無しさんはそこにゃいねぇからな。」

「いやいやいや。に、しちゃ頻繁に行きすぎだろっ!」

「だーかーらっ!名無しさんに本を借りてるって前も言っただろうがっ!」

「おまえなぁ。オレらがそんなの信じると思ってんのか?読書友達?何だよ、その清きおつきあいは。おまえも名無しさんも海賊だろ?二人っきりであんな狭い部屋にいて、手ぇ出さねぇわけがねぇだろ?」
やってられない、という顔をしたマルコが、ジョッキの酒を煽る。

「この前だって、名無しさんがおまえに馬乗りになってたらしいじゃねぇか。」
と、エースも会話に加わると、サッチは嬉々として話を続ける。

「おぅ!そうだぜっ!天下の白ひげ海賊団一番隊隊長様を足蹴にできる女は名無しさんしかいねぇよなぁ!」
参戦してきたエースを忌々しそうに見ると、マルコは大きくため息をついた。

「あれは名無しさんも言ってただろい。オレの腕立ての重しになってたんだよい。ま、オレを足蹴にできる女は名無しさんしかいねぇってところは否定できねぇけどな。」

「…えー。じゃ、何だよ。おまえらまだ本当に何もねぇの?」
エースが残念そうにそう言うと、

「ねぇよいっ!」
と言ってマルコがジョッキを床にたたきつけた。

「またまたまたぁ。オレの目は誤魔化せねぇぜ〜。一緒にいるおまえらの雰囲気が明らかに違うんだよっ!名無しさんだって、満更でもなさそうだしなぁ。」

「けっ。」

「恋をすると女はきれいになるって言うからなぁ。最近の名無しさんちゃんは人気急上昇中なんだぜ?」

「そうかい。オレにはその違いはさっぱりわかんねぇよい。」

「そうかぁ?名無しさんの後ろ姿を見送るおまえの鼻の下、完全に伸びてるぜ。」
再びつがれた酒を一気に飲み干すと、マルコは

「うるせぇよいっ!オレはホモじゃねぇって言っただろいっ!オレにとっちゃあいつは女じゃねぇんだよいっ!」
と怒鳴った。

「女じゃなくて悪かったわね。」

「え?」(マルコ)

「あ?」(サッチ)

「お?」(エース)
突然背後から聞こえたドスの効いた声に、3人がゆっくりと振り返ると、仏頂面の名無しさんが腕を組んで仁王立ちしていた。

「マルコ、親父が呼んでるよ。」

「え?あ、お、おぅ。」

「よぉ、名無しさん!今日も大活躍だったなっ!おまえもここに座って飲めよ!」
同じネタで名無しさんをからかおうと思ったサッチがそう叫んだが、

「申し訳ないけど、私をちゃんと女扱いしてくれる素敵な仲間たちとあっちで飲んでるから遠慮するわ。」
と言うと名無しさんはくるりと向きを変えてその場を去っていった。その後ろ姿をマルコが茫然と眺めていると、そんなマルコに、

「おい、マルコ。親父が呼んでるんだろ?」
とエースが声をかけた。はっと気が付いたマルコは

「ああ。」
と立ち上がって、そのまま親父の座っている方に向かって歩いて行った。
サッチもエースも、いつものマルコと名無しさんの痴話げんかだと気にも留めていなかった。マルコ自身も、ここ最近口にしていなかったセリフではあるものの(と、言うのも、もうマルコにとって名無しさんは完全に『女』だから)、以前はよく言っていたことだからきっと名無しさんも冗談だと思っているだろう、ぐらいにしか考えていなかった。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ