長い夢「何度でも恋に落ちる」

□帰還
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「親父っ!」
名無しさんが白ひげに駆け寄ると、白ひげは両手を広げて名無しさんを受け止め、抱き上げた。

「グラグラグラ。元気そうだなっ!待たせてすまねぇ。」

「ううん。私もマルコも大丈夫。それより、みんな大丈夫だった?」
白ひげは名無しさんを甲板に降ろすと、ゆっくりと近づいてくるマルコを名無しさんの肩越しに見た。

「無事か、マルコ。」

「ああ。心配かけてすまなかったよい。もう大丈夫だ。」

「一瞬とは言え、おまえのビブルカードがかなり小さくなってたから焦ったぜ。」
白ひげの横に立っていたイゾウがそう言うと、

「すぐに元に戻ったし、名無しさんと一緒にいるみたいだから大丈夫だとは思ったけどな。」
ビスタがそう補足した。その横で名無しさんは同じく並んで立っていたナミュールに駆け寄った。

「ナミュール!あの後大丈夫だった?」

「ああ。すまねぇ、オレが手を離しちまったから…。」
申し訳なさそうにしたナミュールに、名無しさんは苦笑いして首を横に振った。と、そこで、マルコの

「ジョズもかい!?」
と言う声で名無しさんが振り返った。

「ああ。あれは、きついな。」
そう言ったジョズの右肩には包帯が巻かれている。ダイヤモンドのジョズが包帯をしていることが今まであっただろうか、と名無しさんは思った。

「体制を整えんのと、ジョズが食らった海楼石を取り除くのに時間がかかっちまった。おまえのビブルカードが復活するのを見て、ジョズの治療を優先させた。遅くなってすまなかったな。」
そう言った白ひげに、

「いや。そんなに離れていねぇはずだから、何かあったんじゃねぇかと心配はしてたんだが…。海軍の奴ら、また面倒くせぇもん作りやがって…。」
とマルコが眉間に皺を寄せる。と、そこでサッチがエプロンをしたまま甲板に出てきた。

「おめぇら!朝飯だっ!昨日は後片付けやら治療やらでまともな飯が用意できなかったからなっ!その分朝飯でしっかり食ってくれっ!」

「おおっ!待ってましたぁ!!」

「エース、おまえは後回しだっ!昨日の夜腹減って眠れねぇとか言って、夜食くってただろーがっ!」

「えええっ!何だよ、それ〜っ!」
いつものやり取りに隊長も白ひげも笑い出すと、一気に和んだ雰囲気のまま、全員食堂へと移動した。



その後はマルコも名無しさんもあわただしかった。
シャワーを浴びて着替えた後は、船の補修の手伝いで船内を走り回ったり、けが人の手当をしたり。マルコはマルコで全体の損傷を把握したり、隊長を集めて前回の戦闘について情報収集をしたり。気が付けばあっという間に夕食の時間になり、二人ともくたくたになっていた。モビーに戻ってから、二人が顔を合わせる機会はなかった。

「あー!やっぱり自分のベッドが一番いい〜。」
激務の一日を終えて、名無しさんは自室のベッドに寝っ転がる。仰向けになって天井を仰ぐと、改めて自分のベッドの柔らかさと暖かさをありがたく思うのだ。そこでふと、今回の一連の出来事を思い返した。
マルコを抱きかかえて泳いだこと。マルコのわき腹から銃弾を取り出した事。焚火を見ながら一緒に食事をしたこと。マルコの大きな翼に包まれて寝たこと。朝起きたら人間のマルコに抱きしめられていたこと。マルコの背中に乗ってモビーまで飛んできたこと。

「…。マルコ、ねぇ…。」
確かに、マルコは間違いなく『たくましい胸板の、腕っぷしの立つ頭のいい海賊』だ。わかってはいたが、今回名無しさんは実際にその胸に抱かれて身をもってそれを体感してしまった。頭の良さも思い知らされていたが、今回の危機で再認識させられた。賢いだけではない。冷静沈着そのものだ。そして、気が付けばちょっと前まで何かあるとすぐに嫌味の応酬になっていた二人の関係がいつの間にか穏やかなものに変わっていた。ほぼ丸一日一緒にいて、冗談の言い合いはあっても険悪な雰囲気には全くならなかった。それどころか、

「…安心できるんだよね。」
思わず口をついて出た本音に、名無しさんは苦笑いになる。仲間だから、とか、隊長だから、圧倒的な強さだから、とか、いろいろと言い訳を考えてみたがそれらはすべて「当たり前」のことであって、そこの部分はずっと昔から変わっていない。でも、ちょっと前の名無しさんなら、きっとあんなふうにマルコに抱きしめられて寝るなんてありえなかっただろう。どんなに寒くても、そもそも「寒い」なんて口にしなかったかもしれない。今回の件以前から、なんとなく名無しさんは自分のマルコに対する気持ちの変化に気がついていた。過去の自分を馬鹿にするどころか、すごいと認めてくれたこと。女である自分の陰口を叩く奴らに、まるで自分のことのように怒りをあらわにしたこと。共通の趣味を介していろんな話をするうちに、自分自身の中にあったマルコに対する警戒とか、偏見とかそう言ったものが消えて行くのを自覚していた。

「ありなのかな…。」
そう口に出してみたところで名無しさんは「ははっ。」と声を出して笑ってしまった。もう、そんなことを考えている時点で答えは見えているのだ。
一方のマルコは、何であんなことをしたんだろう。果たして、マルコも少しは自分を女として見てくれるようになったのだろうか?そんなことお考えながら名無しさんは重たくなってきた瞼を閉じた。もし、今ここでマルコが添い寝をしてくれたら最高なのに、と思いながら。
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