短い夢@

□試し試され最終的に
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「仕方ないじゃん。なかなか覚えてくれないんだもん。」

「…だからって、もうあれから三か月だよい。」

「そうなんだけど…。」
あれから毎回何かあるたびに名無しさんが十六番隊の帆の修繕作業を手伝うのはおかしい、ということで名無しさんの後継者を十六番隊の中で作ろうということになった。向き不向きもやってみねぇとわからねぇし、なるべく多くの隊員ができる方が安心だってことで、何回か、何人かに指導をしているはずなのだが、これがなかなか終わらないのだ。
何もない日は連日のようにイゾウがやってきて名無しさんを連れてっちまう。この引継ぎ作業がなけりゃオレとのんびりできるはずなのに。鬱陶しいことこの上ねぇ。

「その…。気になってるんだけどさ。」

「ん?」
眉間に皺を寄せて名無しさんがオレを見た。

「イゾウが怪しいんだよね…。」

「イゾウが怪しい?」
どういう意味だ?怪しいって、なんだ?わけがわからくて名無しさんを見ると、

「…この前さ、イゾウが言ったんだよね。『相変わらずおまえんとこの隊長さんは嫉妬深くて面白いねぇ』って。」

「…。」

「考えてみれば、教えて理解したって奴がやっぱりわからなくなった、って確認しにきたり、でも、なんか緊張感がないって言うか…。本当はイゾウってそういうの怒りそうじゃない?真面目にやれって。でも、そういう雰囲気が全然ないの。それに、『こいつにも教えてくれ』ってちょうど一人教え終わった後にイゾウに声かけられたり。わかってたら2,3人くらいいっぺんに教えちゃうのに…。」
言われてみれば、「名無しさんを借りてくぜ。」と言われる時も、戻ってくんのが遅くてオレが様子を見に十六番隊を覗きに行く時も、いつもイゾウはニヤニヤしている。

「もしかして、マルコをからかってるんじゃ…。」

「あの野郎…。」
振り返ってみれば、思い当たる節がある。オレの前でわざわざ十六番隊の誰かが名無しさんに惚れたらしいと言ってみたり、十六番隊に引き抜いてくれって隊員に言われてるなんて話をしてみたり。

「…決めたよい。もう引継ぎは終わりだ。」

「…イゾウが納得するかな?」

「三か月で覚えねぇ方が悪ぃ。それに…。」
椅子に座っていたオレは立ち上がると、ベッドに座る名無しさんの横に座った。

「マッサージしてると、他の事する時間が減っちまうんだよい。」
そう言いながら名無しさんを抱き寄せる。

「あー。この前もマッサージ中に寝落ちしたしね…。ハハハ…。」
そうなのだ。疲れ切った名無しさんに無理をさせるわけにもいかず。しかも、肩を揉んでるうちにそのままオレのベッドで寝ちまうこいつを起こすわけにもいかず、据え膳状態を一体何回食らったことか。

翌日、イゾウに引継ぎ終了を宣言すると、当のイゾウは

「なんだ、バレちまったのかい。」
と言ってへらっと笑ったもんだから、オレは思わず去っていくその背中に蹴りを入れた。
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