短い夢@

□私を試してみませんか?
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(でかいから大変だったけど…大分ほぐれてきたかなぁ…。)
二の腕のあたりから肩甲骨にかけて手のひら全体を使ってゆっくり揉み解す。普段素肌にシャツを羽織っただけのマルコの上半身は見慣れていたから、無駄な贅肉のない、いい体をしているのは知っていたけど。

(やっぱりいい筋肉は柔らかいよね…。)
最初こそ肩凝りで強張っていたが、もう本来の柔らかさを取り戻しているようだった。
マルコの攻撃は蹴りが多いけど、やっぱり羽を広げて飛ぶことが多いからか背中の筋肉もなかなかだ。どこかの誰かが胸囲が2メートルくらいあれば人間も飛べるって言ってた気がするけど、マルコは胸筋より背筋の方が発達している気がする。

(はだけたシャツから見える胸筋もなかなかいいけど、実はいい背中してるんだよね…。)
もちろん、真正面から抱き着いてその胸に顔をうずめられたら幸せだろうけど、後ろから抱き着いて背中にぺったりほっぺたをつけるのも捨てがたいよねぇ…、なんて妄想したところで私は慌てて首を振った。だらしなくにやけた顔をマルコに見られてはやばい。さっきから静かになすが儘になっているマルコをちらっと確認する。

(あれ?)
目を閉じて首だけ右に向けたマルコの姿勢はさっきから変わらないものの。

(寝てる…?)
薄く開いた唇に規則正しい呼吸。寝ているように見える。
マルコの顔を見ながら手を動かし続ける。間違いない。こりゃ、寝てる。

(…マルコの寝顔なんて、貴重…。)
思わず顔をがにやける。そもそもマッサージのために完全に私に身を預けてくれてはいるものの、ここまで無防備なのはなんだか嬉しい。

(って、言うか、かわいいんだけど。)
出そうになる笑い声を抑えると、私は肩からひじ、首から背中にかけてさするように撫でおろしてマッサージを終えた。動きを止めて、じっとマルコの寝顔を見るが起きる気配はない。ちょっと開いた唇がうつぶせに寝ているから変な形に曲がってる。それがなんともかわいい。思わずむにっと指で掴みたくなるが、起きてしまいそうだからやめた。
でも、起きるかな、と思いつつ、私はそっと手を伸ばしてマルコの頭に触れた。普段は高すぎて触ることなんてないその髪の毛は思ったより柔らかかった。

(なんだか、猛獣を恐る恐る撫でてるみたい…。)
別に怖いわけじゃないけど。起こしたくないのと、マルコに触れられる緊張とで手の動きがぎこちなくなる。本当はずっとその寝顔を見ながら頭を撫でていたかったけど、私はベッドの隅にあった毛布を広げてマルコにかけた。

「おやすみ、マルコ。」
とマルコの耳元で囁いてベッドから離れる。ベッドのサイドテーブルにあったランプを消して、机のものも消そうかと思ったが、真っ暗にするのもどうかと思いそこだけつけておくことにした。
静かにドアを閉めてマルコの部屋を後にする。
あの寝顔を毎晩見られる関係になれたらいいのに、と思いつつも、それは夢のまた夢だな、と思い直してちょっと胸が痛む。せめて夢の中で、もう一度マルコの寝顔を見れたらいいのに、と願ったが、その晩の夢にはマルコは出てきてくれなかった。
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