短い夢@

□ワンピースより見つけるのが大変なもの
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コーヒーを飲もうと食堂を覗くと、珍しくナースたちが座っていた。だからか、その周りにサッチやら男ども数名も集まっていた。なんだかワイワイと楽しそうな雰囲気だとそこに近づくと、ナースたちに混ざって名無しさんも談笑していた。

「なんだか盛り上がってんじゃねぇかい。」
そう言いながら、みんなが囲んでいるものを覗き込むと、そこにはテーブルに広げられた雑誌。

「よぉ、マルコ。」

「マルコ隊長、お疲れ様です。」
オレに気が付いたサッチとナースの一人がそう言うと、名無しさんも顔をあげてにこっと笑った。

「ほら、マルコ隊長にもきいてみようよ。」
一人のナースがそう言うと、

「えー。マルコなんて、一番こういうことに興味なさそうじゃん。」
と名無しさんが面倒くさそうに答えた。

「なんだい?もしかして、オレのことを馬鹿にしてんのかい?」
冗談まじりにそう言うと、

「ほら、こういうの。名無しさんも着てみたらかわいいと思いません?」
そう言ってナースがオレに見せたのは、雑誌の中のモデル。まず目に入ったのが、ピンクとか赤の暖色系の色。で、よく見てみればピラピラとした短いスカートをはいている。

「…。」
コメントに困って黙ったままでいると、

「ほら。困ってるじゃん。」
と名無しさんが言った。

「あー…。名無しさんがこれを着るのかい?」
そう言って名無しさんを見ると、「ね?あほらしいでしょ?」とでも言いたげな顔をしている。

「だって、いっつもこんなジーンズとかじゃないですか?たまにはこういう女の子らしい恰好でもしてみたら?って話をしてたんですよ。」

「だからー。こんな格好してキックしたらパンツ丸見えじゃん。高いところにも上れないし。」
しかめっ面でそう言った名無しさんに、サッチが苦笑いをしながら、

「まるで10歳の男勝りな女の子に『女の子なんだからスカート履きなさい』って言ってる気分だぜ。」
と言うと、

「おまえと10歳の女の子の組み合わせは犯罪だな。」
とラクヨウがゲラゲラ笑った。

「別に女の子らしくなりたいと思ったことなんてないもん。それより私はもっともっと強くなりたいの。」
本当にどうでもいい、とでもいわんばかりに名無しさんがそう言うと、

「もー。そんなんじゃ彼氏できないよ〜。」
と別のナースが突っ込んだ。

「いいんです〜。こんな私でもいいって言ってくれる人を探すから。」
名無しさんが口をとがらせてそう言うと、

「おおぉ〜。そりゃワンピースを見つけるより大変だぜぇ。」
とサッチが笑った。オレはその時「名無しさんらしいな」とくらいにしか思わなかった。





やっと静かになった敵船の甲板に名無しさんがオレに背を向けて立っていた。
厳しい戦闘だった。
結果的に白髭海賊団の勝利だったものの、横たわる死体の中に、仲間のものも混ざっている。
名無しさんの目の前に倒れていた仲間の遺体に近づいて肩に担ぐと、それまで放心状態だった名無しさんが我に返ったのかオレに近づいた。ぐっと歯を食いしばって遺体をオレの肩に乗せるのを手伝うと、もうちょっと離れたところに倒れていた別の遺体を担いで、オレが横たえた遺体の横に並べる。すぐに仲間が迎えに来て手伝ってくれるだろうと思いながら二人とも無言で作業を続けた。この船での犠牲は5人だった。並んだ5人の遺体の前で名無しさんが茫然と立ち尽くす。

「ケガはねぇか?」
そう問いかけると、名無しさんは無言で頷いた。黙ったまま、動かない名無しさんを不思議に思い、うつむいたその顔を覗き込むと、ぽたぽたと雫が落ちていく。

「名無しさん…。」
泣いているのだということに気が付いて、声をかけると、

「…かったら…。私が、もっと、つ、強かったら…。」
としゃくりあげた。

「おまえは十分頑張ったよい。おまえが敵襲に気が付かなかったら、もっと多くの犠牲が出てた。」

「でもっ!これが、マルコだったら…。私が、マルコくらい強かったら、きっと、この5人は死んでないっ。」
確かに、その通りだとは思った。だが、前面の戦闘に気を取られて、後方から敵船が忍び寄っていたことに一番最初に気が付いたのは名無しさんだった。気がついてすぐ、近くにいた仲間とここに乗り込んで戦った。事態に気が付いてオレが駆け付けた時には、かなり劣勢で、すでに何人かがやられていた。

「おまえはおまえのできることをした。」
うつむく名無しさんの頭に手を乗せてポンポンとあやすが、名無しさんはゆるゆると首を横に振った。

「そんなんじゃっ、ダメだよっ。こんなんじゃ…親父の足手まといにしかならないよっ。仲間も、守れない…。」

「それを言うなら、気が付かなかったオレらも同罪だい。」
名無しさんは激しく首を振った。

「いつも隊長たちに頼ってばかりいられないよっ!だから、強くなりたいのにっ!」
思わずオレはひっく、ひっくとしゃくりあげる名無しさんを抱き寄せていた。名無しさんのおでこがオレの肩に乗る。

「女じゃ、なければ、よかった。力も、弱くて、みんなと同じように訓練しても、なかなか強くなれないっ!男だったら、よかったのにっ!」
泣きじゃくりながらそう言った名無しさんに、みんなで談笑していた時の
『別に女の子らしくなりたいと思ったことなんてないもん。それより私はもっともっと強くなりたいの。』
と、いうセリフを思い出す。

(全く…。おまえってやつは…。)

「男も女も関係ねぇよい。男でもおまえより弱ぇ奴もいるじゃねぇか。」
オレは名無しさんを抱きしめる腕に力を込めた。

「男になりてぇなんて言うんじゃねぇ。悔しかったら、もっと精進しろい。おまえはまだまだ強くなれる。オレがいくらでも手伝ってやる。オレは…。」
名無しさんがゆっくりと顔を上げて、真っ赤な目でオレを見上げた。

「強くなりてぇって、頑張る女のおまえが好きだ。」
揺れる目でオレを見る名無しさんの頬の涙をぬぐう。

「おまえが女じゃなかったら、困るよい。」
ぬぐった側から、すぐに次の涙がぽろぽろとあふれる。それを隠すかのように名無しさんは再びオレの肩におでこを乗せると、声を押し殺して泣いた。
しばらくして、モビーからジョズとアトモスが飛び乗ってきた。泣き続ける名無しさんと5人の遺体を目にして二人は悲し気に眉間に皺を寄せると、無言のまま仲間の遺体を運び出した。

「ワンピースより見つけるのが大変なもんを見つけたくらいだ。おまえなら、大丈夫だ。」
そう言って背中をポンポンと叩くと、オレの腕の中で名無しさんは静かにうなづいた。
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