短い夢@
□嘘かホントか
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「サッチ隊長!」
「ん?どーしたぁ?」
振り返れば、ちょっと前に入った新入りのナース。いい女だと目をつけていたからよく覚えている。今日は朝からラッキーだな、なんて思ったのも束の間、彼女の表情と次のセリフにオレはため息を漏らした。
「マルコ隊長が名無しさんさんとつきあってるって、本当なんですか?」
こいつもかよ…。ったく、今にも泣きそうな顔して言うなよ。
「…ああ。」
「で、でも、全然そんな雰囲気ないじゃないですかっ!この前だって、二人で大ゲンカしてたしっ!」
「あー、あいつらはどっちもくそ真面目だからな。公私混同しねぇっつうか、お互い譲れねぇとこは譲らねえからな。」
「でも!信じられないですっ!」
「…そんなこと、オレに言われてもなぁ…。」
「だって、他のナースの子に話したら『確かに、本当につきあってるの?』って思うことはあるよねって…。そんな雰囲気全然ないし、話してるのを見てもいつも隊長と隊員の会話だし、って。」
「でもよぉ、じゃぁ、何でマルコがわざわざそんなウソつくんだよ。」
「マルコ隊長がモテるから?」
「は?」
「言い寄ってくる女が面倒だから、名無しさんさんとつきあってることにしてるんじゃないか、って。」
「いやいや、そんなことする方が面倒だろ?」
って、マルコの奴、そんなにモテんのかよ…。
「でも、名無しさんさんとつきあってる、って言われたら、諦めちゃうと思いません?実際、そうだって子、たくさんいるし。」
ちっ。たくさんいるのかよ。
「いや、まぁ…。もし、本当にそうだったとしてもよ?それってつまりはふられたってことなんだから、もう、しょうがねぇんじゃねぇの?」
「そんなことないですっ!実はフリーだってことなら、諦めないで頑張りますっ!」
「…そ、そうか?」
「そう言ってたのは私だけじゃないんですっ!だから、きっと、マルコ隊長は名無しさんさんと口裏合わせして…。」
いやいや。もし、仮にマルコが本当にそこまでしてるとしたら、むしろしつこくアタックしたりしねぇ方がいいんじゃねぇの?とも思ったが、もうこれ以上この子に何を言っても無駄な気がした。
っていうか。
「でもよ、マルコと名無しさんがつきあってんのは事実だぜ。」
そうなのだ。これは紛れもない事実なのだ。
「嘘だ。」
可愛い顔して強情なこのお嬢さんはなかなか現実を見ようとしない。
「しゃーねーな…。明後日の夜、ちょっとつきあえよ。」
「え?」
「明後日上陸だろ?いいな?」
オレはそれだけ言うと、仕込みのために厨房に向かった。
予定通り、二日後にモビーは寄港した。
「まずは、せっかくだから軽く飯でも食うか。」
「…。」
例の新人ナースは一応オレに黙ってついて来ていたが、レストランに入ってしばらく食ったところで
「なんでサッチ隊長とデートしてるんですか、私?」
と思いっきり不満そうな顔をして言った。何だよ。せっかくまぁまぁいい雰囲気の店選んでやったのに。
「上陸初日はあいつら忙しいみてぇだからな。先に食っとかないと腹減るぜ。」
「答えになってないです。」
「マルコと名無しさんがつきあってるってのが信じらんねぇんだろ?」
「はい。」
「だから、マルコもオレも嘘ついてねぇってのを見せてやるんだよ。」
「え?」
「ここからならモビーから降りてきたら必ず見えるからな。」
そう言って窓の外を見ると、外はもうすっかり暗くなっていた。しばらくして、オレらの食事も完全に終わり、オレは店員の手を挙げて会計を促した。
「あ。」
と新人ちゃんが声をあげた。
オレも顔を上げて窓の外を見れば、マルコと名無しさんが並んで歩いている。
名無しさんが一生懸命何かをマルコに話かけているが、その二人の雰囲気は傍から見ても「男女の仲」とは程遠い。
「ほら。どう見たって、事務的な会話しかしてなくないですか?」
「まぁな。」
オレはそれだけ言うと、テーブルの上に金を置いて立ち上がった。
「行くぞ。」