ロンリーハイドアンドシーク

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次の日、じゃんけんに負けたシャチは1人街へと買い出しに出ていた。
「何で買い出しが一人なんだよ…しかも、ついでにみんな個人の買い物もあれこれ追加してきやがって…」
両手に買い出しの荷物の入った紙袋を持ちながら、島の裏に停めている船へと向かっていた。
街から森へと入りしばらく歩いていると、右手にひらけた場所があり、広大な湖が見えたのだ。
「へ―来るときは気付かなかったな…」
シャチは立ち止まってしばらくそちらに目をやっていると、水中から人影が飛び出し、跳ねるようにまた水中へと潜っていく姿を見た。
そして再び水中へと浮かび優雅に泳ぐ姿にシャチはついつい見惚れてしまう。
「魚…じゃねぇよな、人だよな?なんかお伽話にでもでてくる人魚みてぇ…」
興味がわいたシャチは湖へと足を向ける。
こちらには気付いていない様子で、人影は少し泳ぐと再び水中へと潜っていってしまった。
しかし先程までとは違い今度は全く水面に上がってくる気配がなく、シャチは無意識に湖の岸際まで歩いて来ていた。
するコポコポと気泡は浮かんでくるものの、人影は水中でじっと動いていない姿を確認し、シャチは冷や汗を感じた。
「もしかして…溺れた?」
急いで荷物を地面に置いて帽子とサングラスを取ると、シャチは人影の方へと湖の中へ走りだす。
いざ飛び込もうとした時だった、湖の水中に巨大な魚影が目の前を通っていき一瞬立ち止まってしまった。
「何だよ今のでけー魚…海王類じゃあるまいし、」
魚影を目で追った後にその巨大魚が通った辺りの水中にまだ人影が残っているのを見るなり、シャチは今度こそ迷うことなく湖に飛び込んだ。
潜ってみれば人が手足を投げ出したように水中を揺らいでおり、シャチは急いでそこまで泳いでいった。
しかし真横から先ほどの巨大魚がこちらへ向かって来ているのを視界の端に捉え、シャチは「間に合え!」と人影の元へと泳いだ。
なんとか辿りつき腕を自分の肩にまわし、急いで水面へととりあえず向かった。
「ぷはっっ…はぁ、はぁ…やべぇ…」
ものすごい勢いでこちらへやって来る巨大魚に、シャチは岸辺を目指して泳ぐが、そのスピードに覚悟を決めてナイフへと手を伸ばした。
すると肩にまわしていた腕がするりと抜け、ぐったりしていたはずの人物はシャチの腕をぐんっと強い力で引いて自分が前に出たのだ。
そして水面から自分たちの方へ飛び込んで来ようとする巨大魚に対し、片手をかざした。
『だーめ』
少女の声がそう一言呟くと、今にも自分たちのところへ飛び込んで来ようとしていた巨大魚がピタリと動きを止めた。
そしてあろうことか、大人しく水中に潜り湖は何事もなかったかのように再び静まり返ったのだ。
一体何が起きたんだと、目を何度もパチクリするシャチを他所に、目の前にいた少女は髪をかき上げながら振り返るとニカッと笑った。
『あれ?君は昨日の人だね』
少女の言葉に混乱する頭をフル回転させながら、シャチは昨晩の酒場にいた少女であることを思い出す。
「お前っ昨日の…!」
『君も水浴びしに来たの?』
そう言いながら岸の方へと泳いでいく少女に、シャチも水分を含んだ重い服に苦戦しながらも後に続いて泳いでいく。
「水浴びって…俺は、お前が溺れたのかと思っててっきり…」
シャチはそう言いながら水を含んだ重たい服を絞りながら岸へ上がってくると、視線を少女へ向けると同時に目を大きく開けた。
「ぉわっ…!?(そういえば裸じゃん?!)」
驚きの声を上げるシャチに少女は「ん?」と首だけ振り返るが、シャチは自身のを前に突き出して少女から視線を外した。
『どうしたんだい?』
「どうしたじゃないだろっ!おまっ…は、裸じゃねぇかっ?!」
『水浴びしてたんだから当然じゃない』
腰に手を当てながら堂々とする姿に、シャチは流石に戸惑いを見せる。
「そういうことじゃなくてっ!お前には恥じらいってもんはないのかよ!?」
『はじらい?』
「兎に角、服着ろって!」
シャチの言葉に首を傾げる少女であったが、あまりにもワーワー騒がられるので渋々服を着始めた。
その間シャチは濡れたつなぎの水を絞り、投げ出していた荷物や靴を回収していた。
『着たよ?これでいいのかい?』
ふんっと小さく溜息をこぼしながら腰に手を添えている少女に、変な奴に関わっちまったかな…とシャチは思い始めていた。
『そういえば君は、なんで服を着たまま水浴びしてたんだい?』
「だからっ!俺はお前が全然水面に出てこなかったから、てっきり溺れたのかと思ったんだよ!
そしたらどでかい巨大魚はいるし、潜ってみればお前ぐったりしてるしさ」
少しを声を荒げるシャチに「ふーん」と顎に手を添える少女は、「なるほど」とこぼした。
『つまり、僕を助けようとしてくれたわけだ?』
「まぁ、よく分かんねぇけど、結局あの巨大魚には俺の方が助けられちまったけど…」
そう言いながら頬を掻きばつが悪そうにするシャチを見て、少女は座っているシャチに目線を合わせるようにその場にしゃがんだ。
『そっかー僕をかー』
「な、なんだよ…」
すると少女はシャチに近づき、両肩に手を添えると顔を近付けていった。
「え、ちょっ…な、」
突然のことにシャチは狼狽え、お互いの顔がぶつかりそうな距離になると思わずギュッと目をつむってしまった。
“ペロッ”
「ひぃやぁあ」
しかし予想とは違い、突然頬を舐められシャチは何とも情けない声をあげながらその場に座り込み、舐められた頬を手で押さえて後ずさりした。
「ななななななっ…?!」
『ふーん、君はすごく新鮮な味がするんだね。甘酸っぱいや』
少女は楽しそうにケラケラ笑うとその場でくるりとひと回りしシャチに手を伸ばした。
『助けてくれてありがとう。僕はアオイ、君は?』
シャチは一瞬戸惑いながらも、アオイが伸ばす腕を掴みながら立ち上がった。
「…俺はシャチ」
『シャチは何してる人?』
「俺は海賊だよ」
『…海賊?』
「あぁ、ハートの海賊団って言えば分かるか?」
ニヤニヤと笑いながら聞くシャチにアオイはへらりと笑顔を向ける。
『知らない』
「まじかよっ…」
思っていた反応ではなかったため、シャチは少しがっくりと肩を落とした。
「キャプテンは最近噂されてるルーキー2億ベリーのトラファルガー・ローってんだけど、ほんとに知らねぇの?」
シャチはそれこそ自分のことのように自慢げに話し、アオイは顎に手を添えて何かを考えるそぶりをする。
『ハートの海賊…トラファルガー……!身に覚えはないかな』
「キャプテン男前だし、結構有名だと思うんだけどな…まぁ兎に角俺はそのハートの海賊団のクルーなわけ!俺たちのジョリーロジャーを掲げた潜水艦でこの偉大なる航路を旅してんだ」
へへっと頬をかきながら笑うシャチに「へー」とアオイは薄い反応で返す。
「…初対面のヤツ相手に何言ってんだろな俺」
そう言うとシャチは荷物を手に持ち、湖の方を見ながら「そう言えば…」とこぼす。
「お前、さっきあの巨大魚に襲われそうになった時…一体どうやって止めたんだ?」
『んー気になる?』
んふふ、と少し悪戯っぽく答えるアオイに、シャチは何か嫌な予感がした。
『君の言う、その“せんすいかん”ってのを見せてよ!そうしたら代わりにさっきのこと教えてあげる』
「見せてって…海賊船に興味でもあんの?」
『違うよ』
頭にハテナを浮かべるシャチに、アオイはその場から手を大きく広げながらくるくると湖の方へゆっくり回っていく。
『その“せんすいかん”っていうのが、どんなものなのか見てみたいんだ」
「潜水艦見たことないのか」
『うん、だから…ねっ!』
そう言ってニカッと笑うあおいの笑顔に、シャチは不覚にもキュンとなってしまい、見るくらいなら問題ないかな…?と、自分の中で勝手に解決してしまう。
「いいぜ!但し見るだけだからな!船には乗るなよ!」
『うん!』
シャチの言葉にアオイは嬉しそうに目を輝かせ、そうと決まれば早く!とシャチの腕を引いて森の中を歩いて行った。
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