未知との世界

□敵登場
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演習場に着くと、13号からの説明が始まり生徒たちは黙って聞くが、葵はそれに耳を貸すこともなく辺りを見回していた。
それに気づいた相澤は呆れ半分で小さく溜息を吐く。
そこで注意するために声を掛けようとしたが、13号の説明が丁度終え、まぁいいか、と柵にもたれていた腰を上げた。
「そんじゃあまずは…」
そう言いながら演習場入り口の下に見える広場へと目をやると、何やら黒い靄があることに気付く。
「?」
『殺気』
「へっ?」
葵の言葉に隣にいた耳郎が声を漏らした。
すると振り返った相澤は黒い靄から次から次へと大量の人が出てきたことに目を見開いた。
「ひとかたまりになって動くな!!」
「え?」
「何だアリャ?また入試ん時みたいなもう始まってるパターン?」
切島が遠くに見える人影を見ながらそう呟くと、相澤はすぐさまゴーグルをはめた。
「動くな!あれは敵だ!!!!」
黒い靄は少しずつ形を成し、目のように薄っすらと光る二本の線が浮かび上がった。
目的はオールマイトだという敵の目的から、その殺気は生徒たちへとも向けられる。
慌てる中で八百万は13号に侵入者用のセンサーの有無を確認するが、それは一切反応しておらず、敵の言葉や現状からみて轟は用意周到に画策されていると判断した。
捕縛武器を解きながら相澤は後方へ一瞬視線を移して、髪を逆立てる。
「13号避難開始!学校に連絡試せ!電波系の個性が妨害している可能性もある!上鳴お前も個性で連絡試せ!」
「っス!」
「せ、先生は1人で戦うんですか!?」
イレイザーヘッドの個性は、と続ける緑谷の言葉に相澤は手身近に返すと階段へと走っていく。
「13号!任せたぞ」
走っていく相澤の姿に葵は無意識に数歩歩きだしていた。
『敵…』
「葵!お前も他の生徒たちと一緒に避難していろ!いいな!?」
そう言うと勢いよく階段の上で踏み切ると、相澤は捕縛武器を構えながら敵の元へと向かった。
個性を使い発動系や変形系の個性を消しながら倒し、異形型の敵も難なく倒していく姿に驚く緑谷を横目に、葵は無言のままその姿を見下ろしていた。
「分析している場合じゃない!それと葵くん!君も急いで避難するんだ!」
飯田の声に緑谷は我に返り振り返って走り出すが、未だに動こうとしない葵の姿に声を掛ける。
「させませんよ」
しかし演習場の入り口にたどり着く前に、そのゲートを塞ぐように先ほどの黒い靄が広がった。
「初めまして、我々は敵連合。僭越ながら…この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは、平和の象徴オールマイトに、息絶えて頂きたいと思ってのことでして…」
その敵の言葉に一同は顔を青くした。
しかしその殺気に怯まず爆豪と切島が敵に攻撃をかますが、13号が慌てて大声を上げた。
「ダメだ!どきなさい二人とも!」
その言葉の直後黒い靄が全員を覆うように広がり、少し離れていた葵の元までもそれは伸びていた。
『…うざい』
しかし靄が触れる瞬間、左手を前に差し出して靄を掴むと、それを握りしめ靄は空気中に溶けていった。
その行動に敵は少し驚いた様子を見せた。
靄が晴れると、先ほどまでいたクラスメイトの半数以上の姿がなくなっており、飯田がすぐに大声をあげて確認をすると、障子が個性で散り散りになったクラスメイトの音を拾ったのか、この施設内にいると答えた。
「兎に角全員後ろに下がっていなさい、そこの君も!」
13号の声に葵はチラリと視線を向けるが、構うことなく走り出して階段を飛び降りていった。
「待ちなさい!行ってはいけない!」
葵は地面に着地するなり、そこから一蹴りで敵の懐へ入ると体術で顎に一撃を繰り出した。
「なんだこいつ?!」
「生徒だっ構わず殺せ!」
敵の声に広場で戦っていた相澤は振り返った。
そこには残っていた敵を体術で次々と倒していく葵の姿があり、小さく舌打ちをして目の前の敵を蹴飛ばした。
「何やってる?!避難しろ!」
『役目を果たす』
「今のお前の役目は他の生徒と一緒に避難することだ!」

「余裕か?ヒーロー」
声に反応した相澤が振り返ると顔面に向かって手が伸びてきていた。
「っ!」
咄嗟に個性を発動して寸でで手を払いのけ、鳩尾に向かって蹴りを出したがギリギリで避けられてしまう。
「…23秒」
「本命かっ」
怯むことなくそのまま相澤は捕縛布で敵に向かって放つが、他の敵と違いあっさりと捕縛布を掴まれてしまった。
「24秒」
「ちっ!」
「…20秒」
間合いを詰めて直接攻撃に切り替える相澤を横目に、葵は自身の周りの敵を一掃しに取り掛かった。
「嬢ちゃん大人しく死にな」
『雑魚に用はない』
異形型の拳が振り下ろされるが、葵は後ろに倒れながら拳に手を添えると、そのまま絡みつくように体を反転させて敵の首に両足を掛けた。
“ゴキッッ”
「「っ?!」」
『次、』
そう言って敵の肩を両足で蹴って飛び退くと、次々と敵の首を折っていった。
「おいおいおいっあいつほんとにガキかよ?!」
「普通あんな躊躇なく人のく、ひオ…へ…?」
『邪魔、』


「ところでヒーロー…本命は俺じゃない」


“グシャッボキッ…”

何かが潰れたような音に葵はピタリと動きを止めた。
『?』
何の疑いもなく、その場で音のした方へとゆっくり振り返った。
しかしその振り返った先には、先ほどまで相澤が相手をしていた敵と、ガタイの良い異形型の敵しかおらず、目的の人物の姿がないことに辺りを見回した。
「対平和の象徴、改人“脳無”」
嬉しそうににやにやと笑う敵の視線の先、脳無と言われる異形の足元に目を落とした。
「っっっ!!!!」
「個性を消せる、素敵だけどなんてことないね。圧倒的な力の前ではつまり“無個性”だもの」
敵の言葉の後、脳無は相澤の左腕にも手を伸ばすとあっさりと腕を握りつぶす。
「ぐぁ…っっ!!」
『……消太…?』
葵はその場で相澤の方へと手を伸ばした。
しかし目先では、脳無が今度は相澤の髪を鷲掴み顔を持ち上げ、ふいに葵と目が合うと口を開いた。

“ニ ゲ ロ”

“ゴッ”

地面がひび割れるほどの威力で頭を抑えつけられ、折られた腕とともに力なく地面に落ちた。
『…ッ………』
「大したことない」
そう言って笑う敵を黙って見ている葵に、蹴散らされていた他の敵が立ち上がり歩み寄る。
「クソガキがっ」
「ズタズタにしてぶっ殺してやる!」
敵はそう言いながら拳をナイフのように尖らし、葵に向かって振り下ろした。
『…』
首に向けて振り下ろされた手を、葵は伸ばしていたで当たる寸前触れると、敵は一瞬でその場から消え去り、身にまとっていた衣服のみがその場に落ちた。
一緒に畳みかけようとしていた敵は一瞬で起きた出来事に戸惑い、その場で腰を抜かした。
「はっ?な、んだ?い、いま…」
「なんだぁ?」
「死柄木弔…」
敵の男を“死柄木”と呼ぶ黒い靄は、ズズズと、死柄木の後ろに現れる。
「黒霧、13号はやったのか?」
「行動不能には出来たものの、散らし損ねた生徒がおりまして……一名逃げられました」
「……は?」
黒霧の言葉に死柄木は自身の首をガリガリと掻きむしり、そして大きなため息を吐くと黒霧を睨み付ける。
「黒霧、お前…お前がワープゲートじゃなかったら粉々にしたよ…」

『殺す』

「「?!」」
死柄木の後ろから冷たくそう言い放つと、葵は死柄木の横っ腹に左足で思いっきり蹴りを入れた。
咄嗟に反応したものの死柄木はその場から吹っ飛ばされる。

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