未知との世界

□疑問
1ページ/1ページ


午前の授業を終え、昼休みになると待ってましたと言わんばかりに上鳴、霧島、瀬呂、峰田の4人が葵の机を囲んだ。突然のその勢いに葵は何度か瞬きを繰り返すと、ヘラリと笑う。
「自己紹介からだなっ、俺は…」
『上鳴くん…ですね』
「えっ…」
名乗る前に名前を言われて驚く上鳴を気にかける様子もなく、葵は隣の男子を指さした。
『瀬呂くん、切島くん、峰田くん』
上鳴たちの様子を遠巻きに見ていたクラスメイト達も驚いていた。
『必要な情報は全部覚えていますから』
「じょ、情報?」
「すっげーな…」
「まぁ、自己紹介はじゃあ、必要ないってことで、」
『それよりあなた達が聞きたいことは?あたしが消太の姪だってこと?個性?今朝のおふざけについて?』
淡々とした口調であくまで表情は笑顔のまま葵がそう問うと「えーっと、」と、4人は目線を合わせて困惑し始める。
「はいはーい、そこまで」
手をぱんぱんっと叩きながらその様子を見兼ねた耳郎が男子を除けていく。
「転校初日からそんな詰め寄ったら嫌われるよ」
「女子はやっぱり女子同士でしょ〜!」
そう言いながら芦戸は葵の手を引き、葉隠がその背中を押していく。
葵は特に反論するわけでもなく、されるがままについて行くと、教室の後ろで席をくっつけてお昼の用意をしていたクラスの女子全員の元へと着いた。
「ってことで、連れてきたよー」
芦戸は手前の空いてる席の椅子を引くと、葵をみるなり笑顔で「どーぞ」と促した。
「歓迎いたしますわ」
「一緒にお昼食べましょう、ケロ」
耳郎たちも席につこうとすると、上鳴や峰田がブーイングをする。
「オイラたちが先に声かけたんだぞー」
「女子ずりぃ!」
「男子うるさーい」
耳郎と芦戸が言い合いしているのを横目で見ていると、ふふふと笑い声が聞こえ、葵は笑い声のした方へと視線を向けた。
「うちのクラス賑やかやろ〜。まだ数カ月しか経ってへんけどみんな仲ええんよ」
そう言ってへらりと笑う麗日に、八百万や蛙吹も同調した。
「ねねっ!それより順番に自己紹介してこーよ!」
既に菓子パンの袋を開けて食べていた葉隠が、パンをブンブンと振りながら提案する。
『自己紹介なら無用です。必要な情報はもう頭の中に入れてますので』
と、葵が一言言い放つとその場はシーンと静まり返った。
しかし直ぐに芦戸と葉隠がケラケラと笑いだした。
「堅いよっ」
「そんな畏まらなくていいってば、ねぇ?」
すると他の女子たちもクスクスと笑いだし、葵は1人ぽかんと呆けた。
「ウチら別にそんな堅苦しい関係じゃないしさ、もっとラフで行こうよ」
「無理に砕ける必要はないけれど、クラスメイト同士仲良くしていきたいわ、ケロ」
「転校初日で緊張してらっしゃいますでしょうけど、同じヒーローを目指す者同士切磋琢磨していきたいですわ」
『ヒーロー…』
その言葉に葵は一度無表情になる。
『らふ?クラスメイトって、どう接すればいいんでしょうか?』
葵の言葉に今度はクラスの女子たちがぽかんと呆ける。
その言葉に耳郎は頬を掻きながら「あー…」とこぼす。
「もしかして相澤さんもヤオモモと同じお嬢様って感じ?」
「え、でも相澤先生の姪っ子なんでしょ?こう言っちゃったらなんだけど、相澤先生って富豪とは程遠そう」
「ちょ、芦戸さんっそれは先生に失礼過ぎるで」
『消太が富豪かどうかは分かりませんが、無駄を酷く嫌う人です』
「それは分かる!“お前らは合理性に欠ける”って、入学初日から怒られたもんね〜」
「しかし先生の仰ることはヒーローとしての自覚を持つためには、必要な考え方かと…」
「だからヤオモモも考え方堅いんだってば」
そのまま話題はどんどん逸れていき、葵は1人その光景を目にし、少し何かを考えるとその場から立ち上がった。
突然のその行動に、女子たちは驚き視線を葵へと向けた。
「相澤さんどうしたの?」
『尋ねるべきことが出来ましたので、職員室に行ってきます』
そう言うなり葵はさっさと教室を後にして、職員室へと迷うことなく走っていった。
「どうしたんやろ…?」
「さぁ〜…」
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ