何でも屋の受難
□フラッカー
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街の中心の大きな時計塔の最上階、古いレンガ造りには似つかわしい電子機器を操り、耳元のヘッドフォンのマイクに向かって男は言葉を発した。
「あーあー、御二方状況報告よろしく」
ザーッと小さなノイズが走るなか、“ニャーン”という愛らしい声が聞こえた。
「おん?」
「こちら弟者、乙一さん聞こえてるよ〜!あと野良猫の大群なら見つけたよ」
間延びしたような声で報告した後「よしよし」と野太い声が続く。
「依頼主の猫の特徴は〜っと…白毛で尻尾の先だけ灰がかってて、ブルートグリーンのオッドアイね。
相当珍しいから一目で分かると思うよ」
電子機器を弄りながら説明する乙一だが、無線機の向こうでは相変わらず猫と戯れている弟者の声が聞こえた。
(ったく、こいつ聞いてないな?)
乙一が溜息を吐こうとすると、無線機越しに弟者の「いでっ」という声が聞こえた。
「んな所で遊んでる暇があるなら、さっさと探せよこの馬鹿」
そう呆れ声で言いながら溜息を吐く兄者の声に、乙一は苦笑した。
「何も叩かなくてもいいのに…」
「今日の依頼が成功すれば、少なくとも今月は楽できる位の額ってわかってんのか?」
「そりゃは分かってるけどさ〜、いくら珍しい猫ってったってこの範囲じゃ至難の業じゃん」
「だからうちの“目”が街中のカメラハイジャックして探してんでしょうが」
そう言うと兄者は歩き出し、弟者も擦り寄って来ていた猫を何度か撫でると、立ち上がって兄者の後を駆け足で追いかける。
乙一は2人の位置情報をGPSで確認しながら、街中のカメラをどんどん切り替えていく。
「そもそもその依頼主の大富豪の猫、豪華な首輪つけてたんでしょ?治安の悪い所にでも迷い込んでたら一発アウトじゃん」
「こーら、弟者君そうやってフラグを立てないの!」
「最近は猫の毛皮を集めるコレクターもいるって話だしな」
「兄者君まで!2人共縁起の悪いこと言ってないで、散開して探しなさい!」
まったく、と乙一がカメラを切り替えた時だった。
一瞬カメラの視界を横切ったその姿を、乙一は見逃さなかった。
「いたっ!街の禁止区域路地裏前!2人の位置からだと南東方向」
「南東の禁止区域って真逆か…」
「兄者任せて!俺が先に行って捕まえてきてやる!」
弟者はそう言うなり、近場の壁伝いに建物の屋根まで登ると、次々と建物へと飛び移っていき対象のいる場所へと向かった。
「全く…あいつは猿かよ」
「今はカメラに映らなくなっちゃってどういう状況か分からないから、2人共くれぐれも用心して頂戴ね」
「「了解」」