Harry Potter  ビル

□また、会う日まで
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一夜が明けた、城の中にはほとんど誰もいなかった。
試験が終わったとなれば、みんなホグズミード行きを楽しんでいるのだ。
ハリー・ロン・ハーマイオニーは昼頃に退院していった。
クラルスも3人と一緒に退院してしまいたかったが、
スネイプ先生が失神呪文をかけたというので今日1日は病室で過ごすことになった。
それを聞いた3人は、スネイプ先生を殺さんばかりに怒りをあらわにしていた。

『(私も先生に失神呪文を使ったから人のことは言えないけど、
  それにしても、やり返すなんて大人げない・・・)』

病室にはクラルスの一人だけだった。
マダム・ポンフリーは所用で出かけている。
寝ていろとは言われていないので、ベットに腰を掛けて外を眺めている。

病室にいても耳には入ってきた。
"スネイプ先生が、ルーピン先生が狼人間だということをばらした"、と。

『(きっと、もう学校には残れないわ・・・)』

狼人間に教えを請いたいという生徒の親がどれだけいるのか、いや、皆無に近いだろう。

『(あんなに素晴らしい先生は、他にいないわ・・・)』

クラルスは暗い表情で思った。
病室に誰かが入ってきた。足音はこちらに向かってくる。
クラルスのベットの周りを囲むカーテンが開かれた。

『ルーピン先生・・・』

ルーピン先生が微笑みながら入ってきた。
手には古ぼけたスーツケースを持っている。

『辞めちゃうんですね・・・』

「知っていたんだね」

『ここにいても、話は入ってきますから』

ルーピン先生は近くの椅子の上にスーツケースを置いた。

「ダンブルドア先生から私の杖と地図を受け取ったよ。
 君がずっと持っていてくれたと聞いた」

『"忍びの地図"は・・・』

「あれはハリーに返したよ。
 私が持っていても何にも役には立たないものだ」

『そう、ですか』

あれはハリーのお父さんが作ったもの、彼が持っているのが一番いい。
クラルスも心からそう思った。
ルーピン先生はベットに腰かけるクラルスの正面に立って、向かい合った。

「君には感謝してるんだ。あの時、君が薬を持ってきてくれたから、
 自我を保つことができ、私は誰も傷つけることなく人間に戻れた。
 飲んでいなければ、君たち誰かを噛んでいたかもしれない・・・」

ルーピン先生の声はとても穏やかだった。
クラルスは胸にこみ上げる何かを押さえるように、下を向いた。
唇を噛みしめ、目をギュッと閉じた。目尻が熱くなってきた。
膝の上で両手の掌をきつく握った。

「もう一度、言わせてほしい。
 君は私が出会った魔女の中で最も聡明で、やさしい心を持っている。
 人の苦痛を理解し、人のために涙を流せる・・・
 それは決して簡単なことではなく、誰にでもできることではない。
 昨夜も、そのやさしい心のおかげで救われた者がいる」

とうとう堪えきれずに、涙が流れ、握った手の上に落ちた。
なにか話さなければいけないのに、言葉がでてこない。
きつく結んだ手は、ルーピン先生の手によって解かれた。
ルーピン先生の手が、クラルスの手をやさしく包んでいる。

「顔をあげて、クラルス」

聞こえた言葉に、ゆっくりと顔を上げた。
顔を上げた先には、クラルスの手をやさしく包んで、微笑みを浮かべるルーピン先生がいた。
涙で顔がぬれるクラルスをみて、ルーピン先生は困った顔をした。

「君の涙を見るのはこれで3度目だ。
 ・・・まあ、そのうちの2回は、私のせいなんだけどね」

クラルスは首を横に振った。先生は悪くない、そう伝えるために。

「私は、私のために流してくれた君の涙に救われた。
 とても嬉しかったんだ。
 こんな私にでも、涙を流してくれる人がいるということにね」

『ルーピン先生・・・』

ルーピン先生は片手を離し、"叫びの屋敷"の時のように涙をぬぐった。
そのまま頬に手を添えた。

「でも私は、もちろん笑った顔の方が好きだ。
 だから、できたらクラルスには笑ってほしい」

こみ上げる涙を押さえ、クラルスは精一杯の笑顔を浮かべた。

『っルーピン先生は、私が出会った先生の中で、最も憧れた先生です。
 先生と話した時間は、私にとってかけがえのない時間でした。
 先生が歩んできた人生は、私が私らしくいる勇気を与えてくれました。
 私も、ルーピン先生に救って頂きました』

ルーピン先生はそれを見て、聞いて、安心したように微笑んだ。

「ありがとう、クラルス。
 その言葉で、教職についてよかったと心から思えるよ。
 こんな私でも、君を救えていたのなら、これ以上の喜びはないよ」

ルーピン先生はクラルスの頬から手から、手を離した。
椅子の上に置いたスーツケースを持ち上げた。
そして、クラルスに向かって、手を差し出した。

「さよなら、クラルス」

クラルスは差し出された手を握った。

「君の先生になれてうれしかったよ。
 また、いつかきっと会える。
 その時は、また話をしよう、クラルス」

『はい、ルーピン先生。
 また、お会いできる日を楽しみにしています。
 どうか、お元気で』

握った手はゆっくりと解かれ、ルーピン先生は背中を向け、病室を出ていった。

誰もいなくなった病室で、クラルスは少しの間、静かに涙を流し続けた―――。





学期の最後の日になった。試験の結果が発表された。
ハリー・ロン・ハーマイオニーは全科目合格だった。
パーシーはNEWT試験で一番の成績だったし。
フレッドとジョージはOWL試験でかなりの科目をスレスレでパスした。
全科目のOWL試験を受けたクラルスは、無事にパスできた。

グリフィンドール寮は、クィディッチ優勝戦の目覚ましい活躍のおかげで、
3年連続で寮杯を獲得した。


こうして、5年生となった1年間は、幕を閉じた・・・。




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