お題・短編

□その手がどんなに温かいかを知らないで
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今日も図書館で、いつもの席に座っている。
天気は快晴、校庭ではしゃぐ生徒の声が時折聞こえてくる。
気持ちのよい日差しが入って、穏やかな時間を過ごしている。

でも、今までと変わったことが1つだけある。

今までは"1人"だった、今日は"2人"だった。
私の目の前に、ルーピン先輩がいること。
私は知らないうちに、このルーピン先輩に気に入られたようだった。

私は課題、ルーピン先輩は小説、
お互いのやってることは違うし、私たちの間に会話もない。

『(単純に、この席が気に入っただけなのかな・・・)』

前は私の髪がなんたら、言っていたけど、それも気のせいだったように思える。
…あぁ、課題をしながらの考え事はよくない、わからなくなってしまった。

「つまずいちゃった?」

『えっと・・・』

ルーピン先輩は私の羽ペンが止まったことに気づいたみたいで、小説から顔を上げた。
せっかくだから、教えてもらおうかな・・・。

『ここが、わからなくて、良かったら教えてもらってもいいですか?』

「うん、もちろん」

快く引き受けてくれた、そこまでは良かった。
ルーピン先輩は、なぜか立ち上がって、なぜか私の隣の席に座り直した。
さすがにびっくりした。

「ここはね・・・」

『っえ、あ、はい』

私がびっくりしてることに気づいてないのか、ルーピン先輩は解説をはじめてしまった。
監督生に選ばれるだけのことはあった、すごくわかりやすい。

「大丈夫?」

『はい、すごくわかりやすかったです』

「よかった、また、つまづいちゃったら聞いていいからね」

『あの、ありがとうございます』

私の言葉にルーピン先輩ははニコリと笑って、小説の続きを読みはじめた。
さっきの席には戻らないらしい。
目の前にいるときはそうでもなかったけど、横に来られてから私の頬が微かに熱くなった。
きっと、さっきより距離が近くなったせい。

『(これじゃあ、まるで、私がルーピン先輩を意識してるみたい・・・)』

「ミコトちゃん?」

『・・・え?』

ふいに名前を呼ばれて、顔を上げた。動けなくなった。
思った以上にルーピン先輩の顔が近くにあったから、あと、その瞳に魅せられてしまったから。。
ルーピン先輩は下から覗き込むように、私と目を真っ直ぐに見ていた。

『(きれいな緑の瞳・・・)』

「…そんなに見つめられると、なんだか恥ずかしいな」

『え・・・あっ、ごめんなさい』

私はすぐに目を逸らし、下を向いた。
さっきよりもずっとずっと、顔が熱くなっていくのがわかる。
きっと真っ赤に染まりきっているに違いない。
そんなとき、ルーピン先輩のクスクスと笑う声が聞えてきた。
私は盗み見るように、少しだけ顔を向けた。

「ん?」

ルーピン先輩も私と同じように、いや私ほどではないが、頬を薄く染めて、
頬杖をついて、こっちを見ていた。
きれいな緑の瞳はやさしく甘さを含んでいるように思えた。
やっぱり、魅入ってしまう。

『あ、の・・・』

「なに?」

『なん、でもない、です』

私にはムリだった、聞けない。
どうしてルーピン先輩はここにいるのか、なんでその目で私を見ているのか。
すごく恥ずかしいけど、いやじゃない、この空間。
心臓の音が先輩に聞こえそうなくらいうるさいけど、抑え方なんて知らない。

「ミコト」

『っ!!』

「って呼んでもいい?」

これは、ほんとうに、心臓に悪かった。もう、心臓が飛び出そうなほどに。

「僕のことは、リーマスって呼んでほしい」

『あ、ぅ、』

「呼んでみて?」

そんな目で見ないでほしい。そんな甘さを含んだ目で。
私の顔は、これ以上にないくらいに、真っ赤に染まっているはずだ。

「ほら、呼んで?」

『・・・リー、マスせん、ぱい』

「なぁに、ミコト」

あぁ、もうダメだ、ムリ。
課題?そんなもの、今の私には、どうでもいい。
それよりも、今の状況を誰かに説明してほしい。

ルーピン先輩、いや、リーマス先輩に、
名前を呼ばれたくらいで、こんなにもドキドキするなんて。
今までのドキドキとは全然違う。
もっと、こう・・・甘く苦い感じ。

この人のことが、わからない。
お願いだから、リーマス先輩、頭を撫でないで・・・。
なにも、考えられなくなりますから・・・。

その手がどんなに温かいかを知らないで

 

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