お題・短編

□この熱は誰の所為?
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その人は、不思議な人だった。

ホグワーツの悪名高き悪戯仕掛人の1人で、整った顔立ちで、でも顔や手に傷があって、
よくチョコレートを食べていて、談話室では紅茶を自分で淹れて飲んでいて、優しい笑顔を浮かべていて……

リーマス・ルーピン先輩。
私の一学年上の五年生で監督生。
なんだか、不思議な人だった。

そんな人が今、私の目の前にいる。
正確には、寝ている。

ここは図書館。
私が好きな小説を読みふけっているときに、このルーピン先輩がやって来た。

「ここ、座ってもいいかな?」

私の目の前の席だった。
周りには空いている席がまだたくさんあった。
なぜ私の前なのか…疑問に思ったが、ここは窓側で日差しがほどよくはいる席。
きっとルーピン先輩も、この日差しを求めてきたのだろうと思った。

『はい、大丈夫です』

「ありがとう」

ルーピン先輩は微笑んで目の前の席に座った。
彼はそこで持参した小説を読み始めた。
私も視線を手元に戻し、小説の続きを読み始めた。

読み続けて数十分、外が薄暗くなってきた。
時計を見ると、もう少しで夕食の時間になろうとしていた。
時計から目を離して、正面を見るとルーピン先輩は腕を枕にして眠っていた。

ここで冒頭の印象が頭に浮かんだのだ。

とても気持ち良さそうに眠っている。
でも、そろそろ移動しないと夕食が食べられなくなってしまう。

『(起こした方がいいよね…)』

私は立ち上がって、ルーピン先輩の横に移動した。
とりあえず、声をかけてみる。

『ルーピン先輩、夕食の時間です、ルーピン先輩』

彼からの返事はない、聞こえるのは微かな寝息だけ。
もう一度、声をかけてみた。

『起きてください、先輩、ご飯を食べられなくなってしまいます、ルーピン先輩』

……やっぱり起きてはくれない。
ここまできたら、置いていくなんてことはできない。
失礼だが、体を揺らさせていただこう。

私はルーピン先輩の肩に手を置いて、前後に揺らしてみた。
ここで声をかけることも忘れない。

『ルーピン先輩、ルーピン先輩』

「ん……ん〜」

ようやく寝息以外の反応が帰って来た。
でも、起きたわけではない、ただ唸っただけようだ。
もう一押しだった。
また、肩に手を置いて揺らさせてもらった。

『ルーピン先輩、起きてください』

「んん……ぅん……うん?」

やっとルーピン先輩は顔をあげてくれた。
でも、その顔はとても眠そうで、すぐにでも夢の世界に入っていってしまいそうだった。

『ルーピン先輩』

「ん、君は……」

ルーピン先輩は目をしぱしぱさせて、私の顔をじーっと見つめてきた。
思わず、かわいいと思ってしまった。

「もしかして、寝てた?」

『はい、とても気持ちよさそうに』

「あ〜……そうなんだ」

ルーピン先輩は照れたような、でも残念そうに眉根を寄せた。
それから頬杖をついて、私を見上げてきた。

「おはよう」

『おはよう、ございます?』

正確にはこんばんは、の方がこの時間には合っている気がするが、寝起きならおはようでいいのかもしれない。
ルーピン先輩は、なぜかクスクスと笑っている。
よく、わからない。

『??』

「名前、教えて?」

『ほぇ?』

突然のことに変な声が出てしまった。 


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