お題・短編

□この熱は誰の所為?
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ルーピン先輩はまたクスクスと笑っている。
私は恥ずかしさに頬が熱くなった。

「僕、君の名前、知らないから。
 だから、教えて?」

なにが、だからなのかわからない。

『ミコト・ヨイヅキ、です』

「ミコトちゃん、か〜」

私の名前を知ったルーピン先輩はとても嬉しそうだった。
本当に、わからない。

『ルーピン先輩?』

「ん〜?」

ルーピン先輩は相変わらず優しい笑顔を浮かべて、頬杖をついている。
つい忘れそうになったが、もう夕食の時間なのだ。

『そろそろ移動しないとご飯が食べられなくなりますよ?』

「あ、もうそんな時間なんだ…」

ルーピン先輩はゆっくりと立ち上がった。
ルーピン先輩は以外と背が高い、私の目線の高さに先輩の肩がある。

「じゃあ、行こっか」

『え、え?』

笑顔で話すルーピン先輩は、なぜか私の手を握って歩きだした。
手を握られている私も同じように動き出す。
先輩の手は温かかった。

『せ、先輩、どうして』

「よく、あそこの席で本を読んでるよね」

ルーピン先輩は歩きながら私の方を振り替えって、そう言った。
確かに私は、今日の席でよく本を読んでいる。
でも、それがどうしたんだろ?

「僕も図書館にはよく来るんどけど、いつも同じ席に座ってるミコトちゃんが気になって」

『私、ですか?』

「うん」

だってあそこの席は日差しがとても気持ちいい。
外で本を読むのもいいけど、吹く風がたまに邪魔だと感じてしまう。
でも、あそこの席なら日差しはそのままで、風には邪魔されない。

「あそこの席で日差しを浴びているミコトちゃんの髪の毛がキラキラしてて」

『髪の毛、ですか?』

「うん」

私は生粋の日本人、髪の毛はもちろん黒、真っ黒。
人によっては重苦しい印象を与えてしまう私の黒髪。
それをリーマス先輩は、キラキラしてると言った。

「キラキラしててきれいだったんだ。それでこっそり顔を覗いたら、とっても穏やかな顔で本を読んでて」

顔を覗き込まれてたなんて知らなかった。
その時の私はよっぽど、本に夢中だったのだろう。

「思わず、一緒に本を読んでみたくなったんだ。それで、真帆ちゃんの顔とか観察したかったんだけど、
 寝ちゃったんだよね。あの席の日差しは気持ちがよすぎるんだね」

一緒に本を読んでみたくなったって言ってるけど、やってることは全然違う。
まさか観察されてたなんて……
また、頬が熱くなるのがわかる。

ルーピン先輩の話を聞いてたら、大広間についてしまった。
中からは生徒たちの声が聞こえてくる。
ルーピン先輩と私の手はまだ繋がったままだった。

『あの……』

「また、あの席で一緒に本を読ませてね。今度は寝ないようにするから」

『え、ぁ、はい』

思わず、返事をしてしまった。
ルーピン先輩はにっこりと満足そうに笑って、私の手を離した。
今度はその手を私の頭の上にのせて、何度か撫でられた。
すごく、気持ちがよかった。

「じゃあ、またね、ミコトちゃん」

ルーピン先輩は先に大広間に入っていった。
私はすぐにはその場を動けなかった。

『不思議な、人……』

そう、不思議な人だった。

私の頬はさっきよりずっと、熱を持っていた。

この熱は誰の所為?

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