鬼滅腐

□梅雨
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梅雨は嫌いだ

じっとりと纏わり付く湿り気のある空気も
脳をじんじんと痛め付けるような気圧も

他人に触れたときの
しっとりと貼り付く肌感も、苦手だ


「不死川」

そんな時に一番一緒に居たくない男が、
昨日の夜から俺の敷地に居座っている

「てめェ …良い加減自分家帰りやがれェ」
「俺を避ける理由を聞くまで、帰れない」
「ハァ…」

昨日。日が落ちる前だったか、
もわっと嫌な湿気を連れてきた雨季に、
風呂上がりだというのにじんわりと
汗ばんだ身体がなんとも気持ち悪かった

邪魔ったらしい寝巻の胸元を
剥ぎ取るようにはだけさせ
どかどかと 長い廊下を進む

寝床に辿り着くと半ば飛び込むように
事前に敷いてある布団に大の字に寝そべった

また今年も暦通りに、
俺の大嫌いな季節の到来かと思うと気が重い

(嗚呼クソが うざってェ……… あ )

そういえば 、 と
ぼんやり天井を眺めながら思い出す

今朝、久しぶりに連休を貰ったから
夕刻訪ねると冨岡から連絡が有っていたな

(今日はもう来ないのか…?)

正直梅雨の苛つきでそこ迄考えるのも億劫で、
まあいい、もう眠ってしまおうと
じめりとした気圧から逃げるように目を閉じた




深夜、
ふとずしんとした重みと違和感に
ゆっくり、ぼんやりと眠りから意識がもどる

(何……だ…? 重てェ………)

体温を纏ったそれは
密着した処から湯気が発する様な生暖かさがある

気持ちわりィ…
最低最悪な目覚めだ

この自分に跨るカタマリが
夜も更けてから仕事を終え
俺の姿を見るなり盛った冨岡だと脳が判断した瞬間、
もうそれはそれは寝起きに出せる最高の力で
殴り飛ばしていた


そして今である

今現在も半径1メートル以上距離を開けず
恨めしそうに此方を眺めている

あの不意打ちの殺気を纏う俺の攻撃を
寸前で受け身を取り骨ひとつ折っていない所は
こいつも流石鬼殺隊の柱と言った所だ

「不死川、なぜ避ける」

何十回も繰り返される質問。

普段からじとじとと鬱陶しい此奴も
この時期となると一層うざったい。

「だからてめェがじめじめじめじめしてっから
つってんだろうが何回もよォ」
「俺はじめじめしていない」
「うるせェ水柱ってだけで今はてめェが嫌いだァ」
「…… (意味は分からないが何と傷付く) ....
そんなこと言われても俺はあんなに着衣を乱した状態で迎えられ誘惑をされているとしか思えなかった」
「迎えてねェし俺の身体見たくらいで盛ってんじゃねェよ童貞野朗がァ」
「…… 不死川の身体は綺麗だ」
「アァ?こんな傷だらけの肉体の何処が」
「綺麗だ。唆られた」
「……」
「気を悪くしたのなら、すまない」

しゅんと耳を垂らした柴犬のような姿に
暫しなぜか此方が罪悪感を覚え言葉に詰まる

よく見りゃ此奴、あちこち汚れてんな…

いつも無駄に小綺麗にしてやがるのに、
昨晩任務が終わってそのまま素っ飛んで来たに違いない

恐らく俺に会いたかっ...
……

あー クソ……
結局俺は、此奴に弱いらしい

「…… だらしねェ面しやがって、オラ ちょっと来い冨岡」

手招きして名前を呼んでやると
ぱ と顔を上げた冨岡が
尻尾を振って歩み寄って来る

「いいのか?」

無意識なのか 態となのかたまに此奴は
少し掠れた、甘えたような声音で話すから

いつもこうして折れるのは、俺の方だ

様子を伺っているのかなかなか近くまで来ない
奴の腕を強引に引っ張り 此方に引き寄せる

「?」
「1回だけなァ」

掴まれた腕を不思議そうに
見遣る冨岡の顎を掴み
目を合わせたまま慣れた形の唇に口付けた

目蓋を降ろし 暫く其の儘唇を合わせる

ふに、と 柔らかい
此奴の紅唇は嫌いじゃ無い

顎を掴んだまま チュ、と唇を離すと、
長い睫毛を持ち上げた冨岡と視線が交わった

「………これで殴った件はチャラにしろ」

「不死川」

自身の輪郭を固定していた腕を
逆に掴まれたと思った時には
素早く引き寄せられ腰をホールドされる

(! しまった、)

そう思った時には もう
かつ と歯がぶつかる様な勢いで唇を押しつけられていた

熱を持った吐息と共に
熱心に はふはふと唇を合わせて来る

やばい
こうなってる時の此奴は止まらない

逃げるように頭を引くと
ぐっと後頭部を押さえられた

ちゅっ、クチュ、 チュ ……

「っ ンン、 は 一回だけだ っ つったろ!」

なんとか抱き抱えられた身体の間から
右腕を抜く事に成功すると そのままがっと
冨岡の額を押さえ無理やり顔を離す

しかし想定外に間に挟まる腕を無くし
さらに密着を増した事で、
それに気付いた冨岡が
ぐり、と露骨に熱を持て余した奴の
下半身が押しつけてきた

「、テメェ………」
「俺は禁欲5日目だ」

飄々と表情をかけずに陳述してくる事が
逆に怖ぇ、悪びれる様子は皆無だ

「ふざけんな 誰か来たらどうす」
「…… 不死川、」

言葉足らずな冨岡はいつも
求愛の様に夢中で唇を合わせてくる

「ん、 っん、……」

「したい」と口に出す事はしないのに
呼吸を乱しながら唇を貪る姿は
欲望が溢れているのがバレバレで、
官能的で、

………腰にクる、

(…… 俺以外に見せたら絶対殺す)

幼子の様に夢中で降らせてくる唇を
あーん、と口を開けて迎え入れてやると

嬉しそうに目尻を下げながら
焦ったように舌を捻じ込んでくるから

愛らしい舌に甘く噛み付いた



_





「……不死川、辛くないか?」

大丈夫なわけねェだろうが……
と言葉の代わりに覆い被さってくる奴の脚を
下からげしげし蹴り上げる

蹴る と言ってもがくがくと立たなくなった足腰からの
弱々しい蹴りだ
多分俺は今地球最弱だろう

(こんの野郎 下手に出れば調子乗りやがって………)

あの後休憩もなしに3時間ぶっ通しで続いた行為に
あろうことか途中、記憶さえ飛び飛びである

此奴ほど禁欲に向いてない奴は居ないと
文句を言おうと顔を上げると、
視界に捉えた冨岡も何か言いたげに此方を見つめている

「……何だァ」
「…… 不死川、昨日は何故拒んだ ?」

如何しても気になる、と
表情を隠すように首元に埋め
鎖骨に唇を当てながらまた甘えた様に訊いてくる

( ああ…………、そっか 忘れてた)


此奴の熱苦しさのせいで、
大嫌いな梅雨の暑さを忘れていた



「何でもねェよ……焦らしただけだ」



梅雨は大嫌いだ

他人に触れたときの
貼り付く肌感も、嫌いだ


嫌いな事は変わらない、…が
今もべったりと離れない此奴の
暑苦しさは……梅雨にも勝つようで、
まあ、悪くないかもしれない


たまになら、こうして
肌を合わせてやっても 良いかもしれねェな







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