鬼滅夢

□休日
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「........ ない。」
「え?」
「初めてでは、ない。」





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1年程想いを寄せて、やっとやっとで手に入れたあの義勇の「恋人」というポジション。
付き合って3ヶ月、はじめて彼の休日を一日中ご一緒出来るという権利を獲得した。
そもそも柱としていつ何時も多忙な彼にとって休日なんてものはとても少なく、貴重な時間である。

そして彼女にとってもこの休日は、
3ヶ月経っても抱擁以上の触れ合いがない関係から駒を進めるかもしれない、大切な日であった。

予定を聞いて 休日だと答えられた時、勇気を出して 一緒に過ごしたい旨を伝えると思いの外 簡単にOKが出た。
そしてその時、 「....? 別にいいが....」と
きょとんとしていた(かわいかった)理由が
今ならわかる。



彼の休日は 、
それはそれはつまらないものだった。


早めの起床、
朝飯、 そして午前中は 稽古 。

途中昼食を作ると 嬉しそうな顔(側から見ると無表情だが)をして、それはそれは綺麗に完食してくれた。なんと「美味しかった。ありがとう」と頭を撫でられるというオプションもついていた。

そして午後になると 稽古。
その後 すこし休憩を挟むと、稽古。
そして今は、...稽古....

えっ稽古!!!!ずっと稽古!!!
普段からしているじゃないですか稽古!!
これのどこが休日なんですか!!!!!

本当に喉まで出かかった言葉を飲み込めたのは、そこで義勇が本日初めて竹刀を置き、自主稽古が終わりを迎えたようだったからだ。

外ではもう、
丸い夕陽が空をオレンジ色に染めていた。
遠くの山から聞こえるカラスの鳴き声がなんだか寂しく稽古場に響く。

「あ、 おわり?ですか?お疲れ様です」
「..... 風呂に入ってくるが、お前はどうする?」
「待ってます!お茶でも煎れてお待ちしています!」


汗を拭いながらそうか、とうなづくと、てとてと可愛らしいい足音をならしながらこの場を後にする義勇の背中を見送った。

「ふう〜 、」

自然とため息が漏れ、壁につけた背中をずるずるとおろしペタンとその場に座り込んだ。

「 .... こういうことか。あの時のあの可愛い顔は、なんだこいつ 稽古の見学したいなんて変わってるなっていう...」

だってまさかこんな真面目な休日すごすなんて、誰が想像できるだろうか .......... いや、できるな。相手はあの冨岡義勇だったー .....。

でももう付き合って3ヶ月ですよ。そろそろキスくらい、期待しちゃうじゃないですか。

「カタブツめ...........」

気を張りすぎた為かすこしばかり疲れたようで、座ると どっと眠気が押し寄せてきた。
すこしだけ、............

そのまままぶたを下ろした。


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「 ぉわあっ ?!」

突然危機察知したようにばちんと目が覚めた。さっと窓を見ると もう、日が落ちてきている。

「うわああぁ 大変大変たいへん寝過ごした......!」

最悪だ.......!

! 次にすぐ脳裏に浮かんだのは義勇の顔。
ばっと当たりを見渡すと、 自分のすぐ左に目をまんまるに見開いて此方を見たまま固まっている義勇の姿があった。

静かな時間が流れる中 突然大声を出した彼女にまだ心臓がドキドキしているようだ。

「 す、すみませんわたし.......!」
「.......いい。」
「えっとお茶お茶」
「もう済んだ。お前の分なら離れだ。」

視線を落とすと確かに、ほんのり湯気を残し
もうとっくに飲み終えたであろう湯飲みがひとつ。
どうやら 風呂から上がると寝ていた彼女を起こすことも置いていくのも躊躇われた義勇は隣に座り読書にふけっていたようだった。

外はもう日も完全に落ち、暗い。
小一時間は眠っていたらしい。


今まで読んでいただろう本にしおりを挟みその場に置くと、床に片手をつき義勇が立ち上がる。

「あっ ちょ、っと待って下さい!」

反射的に一緒に立ち上がり、両手でぎゅうと腕を掴んでしまった

「?」
「えっと、」

別に何か言おうと思っていたわけではない。

咄嗟に自分が取った行動に何か意味を持たせるよりも、恋人同士という間柄ではあるが まともに触れた事のない義勇の身体を、腕を
自分が掴んでいるという事実の方に、圧倒的に気を取られ、何も思い浮かばなかった。

硬くて太くて、 努力家で真面目な彼のごつごつとした筋肉質な、それでいて綺麗な腕。

(今ドキドキするなんて不謹慎だ 私 )

恥ずかしいけど 離したくはない。
この際 この数ヶ月のモヤモヤとした悩みを話してしまいたいし、義勇も不思議そうにはしているが振り解きはせず、腕を掴まれた不思議な状況のまま彼女の次の言葉を待っていてくれている。

でも、
(なんて言えばいいの......?)

この大真面目に天然な彼には、きっと遠回しな言い方をしたって伝わらない。
それだけは分かる。

でも彼女も、接吻(キス)したいですなんて、なんて、口が裂けても言えないうぶな女性であった。


「..... ぎ、義勇さん」
「?」

「義勇さんって、初めてですか?」

もしかしたら接吻というものをした事がなく
抵抗があるのかもしれないという
彼女なりに気を遣った渾身の質問だったが、

しん .... と信じられない程
静かな時が数秒、流れた。

「......... 何をだ?」
「あのだから、 その、 女性と.... その、」
「...... お前.......」

そんなこと聞いて何になるというんだ?と珍しく義勇の方が至極真っ当な意見を言おうとして、いや彼女にも何かきっと考えがあっての事、と口を継ぐんだ。

彼もまた 彼女が少しばかり阿呆であることを知っていたし、そこが可愛いと思っていたからだが、そもそも質問の意をもっとディープに捉えていた。

(俺の、性交渉の有無を………?)

天然大真面目にくわえ、義勇も男である。

「...........。」

「……や、 やはり、そうだったんですね....。」

実際 自分でも、他の同年代の男児よりそういう『欲』にすこし疎いと自覚はあった。

が、 彼女を大切にしたい意のまま、
何ヶ月も触れなかったのも事実である。

彼女にそういう風に言われる謂れはない。

しかしなぜか安心した菩薩のような微笑みで
うんうんと情けをかけるように自分を見遣る彼女に、なぜか 普段感情が大きく動く事のない義勇もふつりと苛立ちのような感情を覚えた。
男のプライドが傷付けられたようなそんな感覚である。


「........ ない。」
「え?」
「初めてでは、ない。」

そして、冒頭の会話に至る。

「期待に添えなくて申し訳ないが、俺は童貞ではない。」

少しむっとして答える義勇。
もうこうなってくるとヤケクソである。

「、....... えっ...どうてい」
「....... 」

キスと、セックスと
話がほんのりと噛み合わなくなってきた2人だが、事態はその侭 彼女が思いもよらぬ方向に急転して行った。


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