story

□God Rest Ye Merry Gentlemen
1ページ/2ページ

「この部屋ってもしかしてガイアの…自分だけの部屋…?」
「うん。ベッドと本棚と机でいっぱいいっぱいの狭いとこだけどね。ライナーこっちの椅子使いな。」
話しながら椅子を触り比べてクッションの効く方を渡した。

「いいな…俺まだベッドも母さんと1つだよ」
「でも1人で寝るの寒いし雨の日とか怖いよ?うち母さんいないし…」
「…俺は父さんいない。」
「奇遇だね…僕も父さんいない。」
「は?!この家大人がいないのか?!」
「上の兄さんがもう大人だよ。」
驚くライナーをよそに、両手にカップを持って自分も席につきながら続けた。

「うちの父さんはもともとほとんど家にいないで…あちこち本の買い付けに行ってて。去年の秋頃どっかの崖で買い付けの馬車ごと落ちて死んだらしい。昔は教師だったんだって。別にいなくても兄さんたちがいれば生活には困らなかったし、二度と帰ってこないこと以外何にも変わんないよ。ライナーん家は?」
「うちは…生きてはいるけど事情があって一緒に暮らせないんだ。でも俺が名誉マーレ人になれば、英雄になれば、家族三人で暮らせるんだ。」
「そっか。じゃあライナーはすごく頑張らないといけないわけだ。」
「ああ。まず巨人を継承して、世界を救って、英雄になる!」
ライナーはにこにこしながら指を折りさも簡単そうに言った。

「…その前に、手始めにこの課題片付けないとな?」
「まあな」
「あと泣き虫を治して、ぷにぷにふわふわのほっぺもなんとかしたほうがいいと思うぞ?英雄さん。」
「うるさい。…無駄口たたいてないで課題やれよ。」
「じゃあ目覚まし時計を1時間後にかけるからそこまで集中な。どっちが多く進むか競争だぞ!」
「望むところだ!俺が勝ったらさっきのは撤回してもらうからな!」
「いいよ?じゃ僕が勝ったらほっぺた好きに触らせてもらうからな。」

課題に取り掛かりながら考える。
さっきライナーは簡単そうに英雄になると言った。
きっとその途中はライナーには何の意味もない。僕にとってなくても別に構わないものは、どうやらライナーにとってはずいぶん狭くて険しい道のりの先の…幻みたいな夢、みたいだ。
当たり前のことは普通、夢になんかしない。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ