story

□Caresse Sur L'ocean
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店の前でライナーと別れて帰宅し、ファイ兄さんに聞こえるよう大きい声でただいまをする。
ファイ兄さんは長男で、この本屋を切り盛りしている。
いつも静かで頭がよくて勉強を見てくれる。
ほんとはフェリクスだけど、店番中も虚無とか空集合かと思うほど静かだからファイ。

本の積まれたカウンターからちょっとだけ顔を出してくれたので友達がうちに来ると伝えたら
「いたのか。お茶を…棚にリンゴが。」
と返された。
これは僕に友達が「いたのか」、「お茶を」淹れてもてなせ、「棚にリンゴが」あるから切って出しなさい、だ。

店の奥の階段を上って玄関を開けようと鍵を刺したが、様子がおかしい。もう開いてる。
ファイ兄さんが閉め忘れたのかと思い扉を開けると「おかえり!」と大声が返ってきた。
これは次男のルシ兄さんだ。農園で下男をしている。
声も動きも大きくて話が面白くて休みの日には遊んでくれる。
ほんとはルシウスだけど全然そんな感じじゃないからルシ。

ルシ兄さんにも友達が来ると伝えると、大喜びしてリンゴでうさちゃんを作ってくれた。
女の子はこういうかわいいの好きだろ?
なんて笑顔で言われると男の子が来るとは言いにくい。まあ、食べれば同じだし、いいか。
ポットに紅茶を作ってうさちゃんリンゴと一緒に自分の部屋に運ぶ。

部屋を少し片付けてから店の階段の一番下で課題を進めて待っていると、ちょうど3ページほど進めたところでライナーが入ってきた。
「…課題、ここでやるのか?」
「待ってただけだよ…あと一問…よし!部屋に来て!」
声に反応したファイ兄さんが少し顔を上げてライナーを目視したのが見える。

僕らが二階に上がってしまえば、店内にはページをめくる音だけが残った。
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