story

□Ave Maria
1ページ/2ページ

その子を初めてみたのは試験の前。
たいそう緊張した面持ちで鞄の中の鉛筆を探していた。
まさか忘れてやしないかと自分まで焦ったのをよく覚えている。

次にみたのは戦士候補生になってから。本科が始まってすぐの頃、渡り廊下の端に座り、半ベソで擦りむいたらしい膝の怪我を吹いていた。

「君も試験通ったんだね、気になってたから安心したよ。それで今度は何でそんな泣きそうなの?」
僕がハンカチを差し出すとようやくその子と目があった。金のまつげに縁取られた小さなハチミツ色の目は、怯えと涙でゆらゆらと歪んでいたがとても綺麗だった。
「ポルコが足を引っ掛けたんだ。それで擦りむいて…みんなにも笑われた…」
男の子は受け取ったハンカチでぐいと目元をぬぐうとそのまま返しながらたずねた。
「それで…君は?だれ、あの…もしもう知ってる人だったらごめん」
「ガイア。試験前に鉛筆探してるのをみてたんだよ。君は?」
「俺は…ライナー…」
「ライナー、ハンカチはこうやって使って欲しかったんだ。」
僕はライナーの手から自分のハンカチを受け取って膝の怪我に巻いてやった。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ