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□magic
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もう10月に入ったというのにまだまだ暑く、夜道を歩く私たちは二人とも半袖だ。
「あっついなぁ…」
隣を歩く濱家さんは少し汗ばむ左手で私の右手を掴む。
ネオン街を歩く二人。周りもそういう人ばかりで。きっかけなんて思い出せない。飲み会の後濱家さんと飲み直して…それで…。
どうかしてるんだろうな、私。道徳から外れた行為がこんなにも簡単に出来るなんて。
手慣れた様子で部屋を選びエレベーターに乗り込む彼の後ろをついて歩く。
濱家さんはいつもと変わらない表情で。ただ、繋いだ手だけが酷く熱い。
「!、慣れてんのこういうの」
「何でですか?」
「いや、むっちゃ落ち着いてるから」
「ははっ、平常心保つのに必死ですよ」
心臓がうるさく音をたて、指先も僅かに震えている。でも何よりも、少しだけ残る善心が痛む。
「今日、仕事疲れたし暑かったよな」
「え?」
「酒もむっちゃ飲んだし」
「そう、ですね…?」
突然話し出す濱家さんを不思議に思い見つめる。目が合うと優しく微笑む濱家さんに腕を引かれベッドに腰掛けて隣に並んだ。
「濱家さん…?」
「何かの所為にしたら楽やろ?」
「え?」
「俺から誘ったんやから、そんな顔せんでええよ!は」
そう言って私の頭を撫でて顔を近づける。こちらだけ余裕なく緊張しているのに、こんなに色っぽくて格好良いなんてずるい。
ゆっくり目を閉じると唇に触れる熱。
執拗に絡む舌に濱家さんの胸を押すも無意味で。頭を離そうとすると後頭部を掴まれてさらに深く続くキスに苦しくて涙が溢れた。
「逃げたらあかんやろ」
やっと離れた唇。
肩で息をする私にそう言って頬を伝う涙を手で拭ってくれる濱家さん。
「泣くほど嫌?」
「嫌じゃない、ですけど…苦しいです」
「ははっ、ほんま慣れてないな」
そう言って部屋の照明を暗くする濱家さん。柔く抱きしめられてまたキスをする。胸元に伸ばした手は指と指を絡めてベッドに押さえつけられた。
「何も考えんでええから、な?」
「濱家さん…」
「今だけ、今日だけやから」
そう言って優しく微笑む濱家さん。
夏の暑さとアルコールのせい。ふわふわして本当に何も考えられなくなってくる。
そうだよね、今だけ。深く考えなくていい。
それなのに、どうしてそんなに悲しそうに笑うの?
考えたら一気に冷めてしまいそうで。
濱家さんの身体に身を寄せて目を閉じた。
magic
(今日だけは夏の夜のマジックで)