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□night pool 2
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最初で最後だと思う。
遠くて仕方なかった彼がこんなにも間近にいるなんて。
「川西さん…」
その他芸人さんのファンも沢山いたけれど、やはり彼目当ての人が多い。川西さんとの写真撮影スポットには長蛇の列が出来上がっていて私もその列に並んでいた。
少しずつ進む列に近づく川西さんとの距離。
心臓がうるさく音を立てる。よく緊張して吐きそうとか言うけれど、まさにそれだ。
もう、すぐ目の前に彼がいた。
「っ、お願い、します…」
震える手と声でそう伝えた。
緊張して顔が上げられず足も震えている。だってあの川西さんが目の前にいるのだから。
川西さんが好き、好きだ…。
「うん、ありがとうー」
こちらとは違い、あまりにもあっさりとした彼の対応。
驚いて顔を上げると完全に良く見る営業用のあの笑顔だった。
あぁ、そうだ。そうだよね…。
終わった後固まる私にスタッフさんが携帯を渡すと退くように誘導された。
あまりにも一瞬すぎて。
嬉しいはずなのに、凄く虚しくなってしまった。あの、笑顔が。
撮った写真はすぐに確認出来ず、人が少ないプールサイドのベンチに座る。
緊張でガチガチの私の横で、バッチリ営業用の笑顔を見せる川西さん。
私の中ではたった一人の大きな存在なのに、川西さんにとって私はその他大勢の一人にしかすぎない。
こんな思いするなら、来なければ良かった。
そう落ち込んでいると背後から声を掛けられた。
「撮り直そか?」
「えっ、…えっ!!?」
「勝手に覗き込んでごめんな。難しい顔してるから、」
何が起きているのか理解出来ない、何で、何で……。
「っ…、か、川西…っ!」
「ふはっ、呼び捨てやん」
「すみません違っ、あの…っ!」
声を掛けてきたのはまさかの川西さんだった。状況が理解出来ず慌てる私にケタケタ笑う川西さん。夢のようで、いや、夢なのかもしれないけど。
「名前、何ちゃんっていうん?」
「っ、」
「ふふっ、大丈夫やから。言うて?」
「!…」
「ん?」
「!、です…」
「!ちゃん、な?覚えとくわ」
ぽんぽん、と軽く頭を撫でる川西さん。身体の体温が一気に上がる。どう反応していいか分からず慌てる私を見てまた大笑いする川西さんに恥ずかしくて消えてしまいたくなった。
「おもろいなぁ…」
「すみません、もうパニックで…」
「君、いっつもそんなんやんな」
「え、」
「ん?」
首を傾げこちらを見て微笑む川西さん。
今、なんて言ったの…?
「川西さん、あ、の…?」
「もーちょい二人で話そか、あっちで」
人気が無さそうな奥の方を指差す川西さんに、こくこくと頷くことしかできない私。
そんな私をまた笑うけど、先ほどの写真とは違う笑顔を見せてくれた。
night pool 2
(惹かれ合う)