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□night pool
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「亜生くーん!」

名前を呼ぶ女の子達に笑顔を向け手を振る。口を大きく開けて笑う彼の笑顔はいつにも増して眩しくて。

私も、好きなんだけどな…。

大好きな人がこんなに近くで見れることなんてない、行かないと絶対後悔する。そう自分に言い聞かせて来た。
でも、実際に来ても声をかける勇気は出ず、近寄れる訳もなく遠くではしゃぐ彼の姿を見つめるだけ。
彼の周りにいる子達と自分を比較しては落ち込む。水着にもなれずにTシャツのままプールサイドに立ち尽くしていた。

やっぱり、来るべきじゃなかったな。




「ほんま人気やな、あいつ」

「…、えっ?」

気付けば隣に立っている彼を見た。目を合わせる訳でもなくて遠くで女の子達に囲まれる亜生さんを見ながらそう言うのは…


「リリーさん…!」

「あ、知ってくれてるんや?うれしー」

「勿論ですよ、イベントの主役じゃないですか」

「せやけど、自分も亜生目当てで来たんやろ?」

軽くこちらを睨むリリーさんに慌てて謝るとじょーだん、と笑われた。


「自分、名前は?」

「えっと…!、です」

「!ちゃんな、おっけー。」

そう言ってまた笑顔を見せる。
不思議だけど何故か柔らかい彼の雰囲気にさっきまで落ちていた気持ちも明るくなる。

そのままプールに入り軽く泳ぎながらこちらに問いかけるリリーさん。


「で、せっかく来たのに亜生んとこ行かんでええの?」

「沢山人集まってますし、大丈夫です」

「それも…、泳がへんの?」

「あー、なんか恥ずかしくなっちゃって」

「ふーん…」

それ、とリリーさんが指差す私のTシャツ。

今日の為に買った水着。ダイエットも頑張ってはみた。でも、とてもじゃないが私はここに来るので精一杯で。


「ちょお、こっち来て」

「?」

「もうちょい」

「えっ、なんですか?」

「もーちょい」


「…っ、えっ、きゃっ!!?」


リリーさんに呼ばれてそのまま彼に近寄る。

少しだけ、リリーさんはニヤっと笑った。
不思議に思い首を傾げたその時、急に腕を引かれ私はプールに落ちた。


「ちょっ、リリーさん!?」

「自分むっちゃアホやな」

「なっ…!?」

「それ、早よ脱ぎ?びしょ濡れやろ」

バシャ!と大きな音を立てて落ちたせいか、周りからの注目も浴びて恥ずかしい。
それなのにリリーさんは気にも留めずにTシャツに手をかけようとするので慌てて自分で脱いだ。

満足そうに微笑むと、水に濡れた前髪を掻き上げる。リリーさん、こんなに格好いい人なんだ。



「亜生、呼んで来たるわ」

そう言ってプールから上がろうとするリリーさんの手を掴む。


「えっと…?」

「いい、です」

「俺とばっかり話しててもやろ?」

「このままで、良いです」


水面下で繋ぐ手。

何言ってるんだろう、私。
でも繋いだ手は離せず力を入れた。こんなに大胆なことをしている自分にも驚いている。
それ以上にリリーさんほうが驚いているようだけど。


「もしかして、魔性?」

「えっ?」

「じゃなきゃ…最初から計算か」

「あの、どういう意味ですか?」

「亜生狙ってるフリして実は俺なんやろ?こっわー」

「えっ、えっ!?」

「まんまと騙されたわー」

「違います!!」


クスクスと笑うリリーさんは意地悪で、とても楽しそうだ。


今日、来て良かったかも。

手を繋いだまま二人ではしゃぐナイトプール。
目が合うと目尻にシワを寄せて笑うリリーさんの笑顔に、私も笑みが溢れた。





night pool

(きっかけなんて些細なことで)




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