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□カラオケ
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午前二時。
一次会が終わり、二次会が終わり、やっと帰れると思ったのに。今頃家に着いているはずだったのに…私は何故カラオケにいるのだろう。
「!ちゃんも歌おうや!」
泥酔した芸人さん達の誘いに苦笑いを向けて端に座り目の前に置かれたビールを飲む。
別に会社の飲み会というわけでもない。一部の人間の集まりで顔出すだけでいいからと誘われて来たのだ。ただのスタッフの私は帰っても良かったと思う。
「!ちゃん、……っ、?」
「えっ?」
早く解散になってくれと願う私の隣に座り声をかけてくれた川西さん。だけど皆の歌声と騒ぎ声に彼の言葉が聞き取れず、分からない?と顔を傾けると少し笑って耳元で囁かれた。
「帰りたいやろ?抜ける?」
悪戯っ子のような笑顔で言う川西さん。
薄暗い室内の中で、二人だけの会話。
黙ったまま頷くと、川西さんは私の腕を引いてこっそりと部屋を出た。
店を出てタクシーを止めて乗り込む。ふぅ、と一息吐いて顔を見合わせると二人で吹き出して笑う。
「ははっ、初めてこんなんしたわ俺〜!」
「私も、ドキドキしました抜け出すなんて…、あの、ありがとうございます」
「ええよ、!ちゃんつまんなそうやったしな?」
「だって、帰りたかったですもん」
「明日早いん?」
「そういう訳じゃないんですけど…」
「じゃあ、今日まだ付きおうてくれる?」
「え?」
「抜け出したの、俺が!ちゃんと二人になりたかっただけやから」
こんな事を言う川西さんに驚いて彼の方を向くも暗い車内では彼の表情が読めない。
「っ、川西さん…?」
「ん?」
「私、えっと…あの…」
「……とりあえず、俺ん家でいい?」
慌てる私をよそに落ち着いた声で話す川西さん。
通り過ぎる街灯に照らされる時に見えた川西さんの目は真っ直ぐに私を見つめていて。
黙ったまま頷く私の手を握る川西さん。少し開いた窓から入る夜風が心地よい。頬杖をつきながら窓の外を眺める彼の横顔をただ眺めていた。
カラオケ
(絡めた指に熱がこもる)