Princess in baker street

□1.
1ページ/1ページ

「67歳、老衰。ここで働いてた。いい人だったわ」
「乗馬ムチから始めよう」
遺体を見たあとにそんな会話を交わしているがりゅうは特に気にしないらしくモリーに抱っこをねだった。


シャーロックが部屋に入っていくとムチを振り回し始めたから遺体にあたる音がこちらまで聞こえてきた。
「ずいぶん…荒れてるわね」
りゅうを抱き上げているモリーが少し笑ってシャーロックに言った。
「あざの経過を報告してくれ。ある捜査に必要だ。りゅう」
こっちへ来いと手を伸ばすと素直にシャーロックの方は移動した。
りゅうを落とさないようシャーロックに近づく体勢になったモリーが頬を赤らめた。
「あの…、もしよかったら仕事が終わったあと」
「口紅を?」
「ちょっと、つけ直したの」
特に興味がなかったのか頷くと何を言いかけてたのか問いかけた。
「よければ、コーヒーでも」
「上に持ってきてくれ」
それだけ言うとりゅうを抱いたままラボへ移動した。

りゅうはなにかの実験を始めたシャーロックから離れて空いている机によじ登るとリュックから塗り絵とクレヨンを出して遊び始めた。

-----コンコンッ

ノックの後すぐに開かれる扉。
りゅうがそちらを振り向くと見たことのない男の人がいた。扉の近くにいたから椅子から飛び降りると遠回りをしてシャーロックの元まで走った。
「シャーロック…」
「携帯を借りたい。ぼくのは不調だ」
「固定電話は?」
「メールをしたい」
それを聞いた男の人がコートのポケットにいれていて今はないことを伝えた。
「よければ使ってくれ」
「それはありがたい」
シャーロックの腰にすがりついていたりゅうはシャーロックが立ち上がって歩き出したせいで引きずられるがお構い無しだ。
「旧友のジョン・ワトソンだ」
シャーロックは携帯を受け取って操作し始めた。
「アフガニスタンかイラク。どちらにいた?」
シャーロックの発言に驚いたのかシャーロックと友人を交互に見るジョン。
「アフガニスタンだが…」
口を開いてすぐにモリーがはいってきた。片手にコーヒー、もう片方にオレンジジュースを持って。
「モリー、悪いね。口紅は?」
「落としたの」
「いい修正だったが…、君は口が小さいから。」
それだけ言うと使っていた机へ歩き出した。
「モリー、ありがとっ」
りゅうも嬉しそうにジュースを受け取ると零さないようにシャーロックのあとに続いた。

「バイオリンは?考えるときに弾く。
何日も話さないことも。
同居人の短所は知っておくべきだ。それに、りゅうもいる。」
ジョンが怪訝そうな顔をした。
「彼に僕の話を?」
「してない」
「誰が同居の話を?」

研究が終わったのかシャーロックがコートを着始めた。
「僕だ。今朝マイクにルームシェアの話を。
その彼がアフガニスタン帰りの元軍人を連れてきた。」
「なぜアフガニスタンと?」
「ロンドン中心部に候補の部屋が…。
明日夜7時に現地で。失礼、遺体安置場にムチを忘れた。」
りゅうを抱き上げると扉に向かって歩き出す。
「それだけ?」
「何が?」
「もう下見を?」
「問題が?」
ジョンがマイクを見て少し呆れたように笑った。
「お互いのことも部屋の住所も知らない」
それを聞いたシャーロックは真っ直ぐジョンを見つめた。
「君は軍医で負傷して帰国。兄がいるが助けを求めない。彼の飲酒癖のせいかな。兄は最近妻と別れた。セラピストいわく君の足は心因性。これで十分だろう?」
少し口角を上げると今度こそ扉に手をかけた。
「僕はシャーロック・ホームズ。こっちがりゅう。住所はベーカー街221B。では。」
ウィンクをすると急ぎ足で部屋をでていった。
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ