「……主さま、何をなさっているのです?」
「別にー。」
「別に、ではありませぬ。先程から何やら手を動かされて…」
「いいの。じっとしてて。」
それは半刻程前、仕事の合間に縁側でぼんやりとしていた私は畑仕事をする大きな獣を発見した。
毛を振り乱し、せっせと大豆畑を耕す獣は嬉々としておりとても楽しげであった。
それを見ているうちに気になることがひとつ。
「邪魔そう。」
そう、毛だ。
ふかふか、もふもふ。
鍬を振り下ろす度にもふん。
草を抜く時にもふかん。
とにかく邪魔そうなのだ。
そう思えば居てもたってもいられない。
それが私、審神者だ。
「ねえ、ねえ。ちょっといいかな?」
「おや、主さま。なんでしょう?」
「邪魔だからちゃんとしてあげる。」
「は?」
そうして畑のそばにあった丁度いい石に獣を腰掛けさせて今に至る。
「主さま、小狐はまだやることがあるのです。そろそろ良いのでは…」
「もうちょっとなの。」
(ゆいゆいゆい…)
「そうは言われましても。主さま?」
「あともうちょっと。……よし!」
「これで邪魔じゃないね。」と自分とお揃いに丁寧に編み込んだ三つ編み入りポニーテールをふわりと風になびかせてみせる。
「え、あ…え?」
「あのね、畑仕事してる小狐丸の毛が見てて邪魔で邪魔で仕方なくて。可愛いよ。」
「………主さま。」
獣はすっと立ち上がると私を見下ろす。
如何せんこの獣は大きい。6尺はあるだろうか。
何が"小狐丸"だか。"巨狐丸"が正解だと思う。
(ふわり)
「わ!」
「小狐は嬉しゅうございます。主さまと同じ髪にしてくださるとは!」
巨狐…じゃなく、小狐丸は私の腰を抱えると軽々と抱き上げギュッと抱擁してくる。
急に背が高くなって見える景色が変わり少しクラクラした。
私は暴れたりする事はなく、自分と同じになった小狐丸の髪をさらさらと手で梳く。
「可愛いし、邪魔じゃないし丁度いいね。」
「主さま〜、お慕いしております〜。」
「またやって欲しい時はしてあげるから、おいでね。」
「はい〜。」
むぎゅむぎゅと抱き締められ嫌な気はしない。
むしろ嬉しい。
髪型を同じにしただけなのに、小狐丸ってば大袈裟だな。
「主さま!大変でございます!」
「何?」
その日の夕刻。
みんなが湯浴みを済ませた頃、小狐丸がバタバタと執務部屋までやって来た。
どうした事か、あれだけ綺麗な状態だった髪がバサバサのくるんくるんだ。
「主さまにして頂いた髪型なのですが…湯浴みをしたらこのように!」
「髪ゴム、お風呂前に外さなかったの?」
「同じでいたかったのです……。」
可愛いな。
なんでそんなに可愛いの?
おっきいくせに…。
そう思いつつ小狐丸を座らせ自分も傍へ座る。
そっと髪に触れ、三つ編みやポニーテールを縛るゴムを解いていく。
全て取り終わると手櫛で形を整えてやった。
「ほら、どうかな?」
「あ、ありがとうございます…主さまは凄いお方です!」
「大袈裟だよ。」
よいしょ、と立ち上がると机に向かい書類整理に戻る。
すると小狐丸も私の隣へ座り込んだ。
「どうしたの?」
「主さまはあまり感情を出されないお方ですので、我ら刀にはあまり興味がないのだと思っておりました。」
ぐっと肩を引き寄せられ到底適うはずのない相手に力負けして小狐丸の膝の上に横たわる形になる。
「とてもお優しい方です…主さま。」
「そうかな…。」
小狐丸に尻尾があればぱったんぱったん振っているに違いない。
だって物凄く嬉しそうな顔してる。
「主さま、小狐は主さまを好いております。」
「うん、ありがと。」
「明日もしてくださいますか?」
「いいよ。」
そう言えば、小狐丸はさらに嬉しそうににっこりと笑うのであった。
______
小狐丸、可愛いなぁ。
続く…かもしれない。