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□いつも
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「本日の戦果を報告致します。遠征部隊では…」

長谷部が真面目極まりない報告をする中、俺は障子の枠に背を預け腕組みをしてそれを聞くまだあどけなさの残る彼女を見つめている。
彼女はちょこんと正座をし、報告を受けながら何やら覚書をしているようだった。

(つまらない)

毎日、毎日、この繰り返し。
時空なんたら軍が攻めて来ては倒しに出向き、資源確保の為に遠征に行ってはこの本丸に帰る。
同じことの繰り返しだ。

(本当に、つまらない)

ふい、と廊下から庭先へ目をやればこれまたいつもと同じ趣景の桜。
この本丸の趣景は春で固定されている。

(春…ねぇ。これが秋ならまだ趣もあるだろうに。)

「鶴丸、そちらの隊は何か変わったことはなかったか。」

そんな中、報告を終えた長谷部が俺に話を振ってきた。
それと同時に彼女もこちらへ視線を向ける。

「……別に、ない。」

庭を眺めたまま答える。

「主に対して失礼だぞ、こちらを向いてきちんと座って報告を…」

くどくどと説教をしようとする長谷部を彼女は少し困ったように眉をハの字にさせながら「いいから」と止める。

「いつも、すみません。」

「いや。」

このやり取りも、"いつも通り"だ。












報告も済み、今日は非番。
縁側に腰掛けて金平糖をつまみながらいつものやり取りを思い返す。

どうして彼女はいつもああなんだ。
年端もいかない女の子だ、もう少し元気でもいいじゃないか。
そうしたら俺だって楽しみがいがあるっていうのに。


…さまー!
こっちですよー!

遠くからはしゃぐ声が聞こえる。
そちらを見れば小さな刀達が畑の畦道でわちゃわちゃと追いかけっこをしているようだった。

短刀はいいな、ああいう遊びも彼らには似合う。
俺がしたらいい大人が…と笑われるのだろう。


ま、待ってー!
みんな速いよ!ちょ、ちょっと…。


短刀達の後ろから先程報告を交わした相手の姿が見える。

「は?」

弾かれたように立ち上がり、本当にそれが彼女なのか凝視する。
白と赤の巫女服、揺れる髪、小さな背丈、間違いなく彼女だ。


つかまったー!
えへへ、つかまえた!


今剣を後ろから抱き留め、はしゃぐ姿は俺の見た事がない彼女。

(なんだ、年相応じゃないか)

「どうした、鶴。食い入るように。」

トン、トンと縁側へ足音が近づく。
声色で三日月と分かった。
三日月は俺の隣に金平糖を挟む形で腰掛けこちらを見上げている。

「いや、主もああいう遊びをするんだなと思って。」

「追いかけっこか。ならば、短刀達とよくしているぞ?」

「そうか。」

向こうではしゃぐ彼女と彼らを後目に俺も縁側へ座り直す。
隣で呑気に茶を飲む三日月を見ればニコニコと実に愉快そうな表情をしていた。

「幼い童がああして遊ぶ姿はいいものだ。主も気晴らしになるのだろうな。」

「いつも困った顔しかしてないからな。たまには遊べばいいさ。」

「困った顔?おかしなことを。主はいつもああだぞ。」

「え?」

「主は年相応の女の子だ。俺が挨拶をする時など、いつもにこやかに「嘘言うな!」

三日月の言葉を遮って話を続ける。

「俺が挨拶やら報告やら目が合った時はいつも困った顔しかしない!笑う?そんなの見たことない!ああしているのも初めて見たんだ、どうしてか分からないが俺が…「鶴や。」

「座れ、な。」

促されるまま
一気に言いたいことを言ったせいか少し身体が熱い。肩が震える。

「人の子というのは感情を読み取るのに長けているのだそうだ。鶴は主の前ではどうだ?楽しく会話をしているか?」

「楽しく…。」

彼女との会話に楽しみはない。
それは彼女がそうしているからであって、俺は別に…。
普通にしてくれていれば、俺もそう出来るのに彼女が困った顔をするから…俺といるのは嫌なのかと。

「お前も不器用よの。何年生きているのやら。」

「うるさいな、じいさんのくせに。」

「じじいなれば分かる事もあるのだ。」

「…うるさい。」











夕餉の時刻。
皆、厨の見える広間へ集まっていく。
もちろん俺も、彼女もだ。

毎度毎度ご苦労なことで、厨では光坊と歌仙が夕餉の支度をしているようだった。

「あ、こんばんは。」

「…」

広間へ入る障子を開けると審神者席に座る彼女が声を掛けてくる。
相変わらず、俺に見せるのは八の字眉の困り顔だ。

「えっと…」

俺が挨拶も返さず、そちらを見ていれば彼女はどうしたものかと顔をうつ伏せてしまう。

そんな彼女を横目に近侍刀の座る席にドカッと腰を下ろした。

「こら!鶴丸!そこは私の席だ!」

「うるさいな、いいだろ別に。」

「うるさいだと?貴様いい加減に「まぁまぁ。」

キーキー騒ぐ長谷部を短刀達が宥める。

「どうしたんですか?何かご用がありますか?」

「別に。」

彼女は俯いたまま膝の上でキュッと手を握る。
そうして顔を上げると俺に向き直りいつもの顔にへらりと笑みを浮かべ何とも形容し難い表情を見せた。

「鶴丸さんは、私が嫌いだと思っていました。」

「え、いや…」

「最後まで聞いてください」と主は俺の言葉を制す。

「いつも怪訝そうなお顔をされて、こちらを見る目は険しくて。でも気まぐれでもこうして隣に座ってくださって嬉しいです。ありがとうございます。」

そう言う主の顔は三日月が言っていたようににこやかに微笑んでいた。

その後、長谷部にしこたま怒られたが別にどうって事はなかった。
この可愛い表情を見れば、長谷部のガミガミ説教なんて頭に入ってこなかったから。











「おかえりなさい、鶴丸さん。」

「あぁ。」

「いつもすみません、怪我はありませんか?」

「別に…ないけどさ。」

遠征から帰るといつも通り報告へ行く。
今日は俺の部隊が1番に帰ったらしく、部屋の中にまだ他の刀はいなかった。
障子に凭れる俺を主は相変わらずの表情で出迎えてくれる。

「なぁ、ひとついいか?」

「はい?」

「その、何でそんな顔をしてるんだ。短刀達と一緒の時は笑っているだろう?俺の前ではいつも難しそうな顔をする。」

「え?そう、ですか?」

主はキョトンとこちらを見ながら少し考えた後、柔らかい笑みを浮かべ手招きをする。
拒否する理由もないため俺は主の前に腰を下ろした。

「鶴丸さんが笑ってくれたら、私も笑いますよ。」

「笑う、って。何にもないのに笑えるか?」

「人はね、相手の表情や仕草に自分を左右されるんです。だから、ほら。騙されたと思って二ってしてみてください。」

すっと身を乗り出し両手の人差し指で俺の口角を上げるとそれを真似して彼女もニコリと笑う。

「笑顔も素敵ですよ、鶴丸さん。」

「うるひゃい………うる、さい。」

「ふふ。」









それから彼女は俺に対しても笑顔を見せてくれるようになった。

「おかえりなさい。」

「ただいま。」

「いつもすみません。怪我は「すみませんじゃなく、もっと他にあるだろ?」

言いながら廊下から不躾に部屋に入ると主の前に片膝をつけて座る。
遠慮なしに彼女の片手を掴むと俺の頭にポンと置かせる。

「ふふ。いつもありがとうございます、鶴丸さん。」

「…どういたしまして。」

「照れてます?」

「……うるさいぞ。」













______________


続けたいなぁ。。


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