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□ごはんください
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ぐー…きゅるきゅる。

「お腹空いたなぁ。」

審神者のお仕事真っ只中。
今は美味しいご飯なんて食べる暇もなく、目の前の台座に刀顕現の祈りを捧げなくてはならない。

かれこれ半日。
教えられた祝詞を唱えながら玉鋼を火にくべる。
もはや一連の流れが作業化してしまいそうな中、私のお腹はピークに達していた。

きゅるきゅる…ぐぅ〜。

「ごはん…。」

資源の山から玉鋼を手に取ると火の中へ投げ込もうとした時、空腹からか疲労からか玉鋼がコロンと転がり廊下と部屋を隔てる障子の傍まで転がってしまった。

「は〜…頼むよ、もー。取りに行くのもしんどいよ〜。」

ぶつぶつ文句を言いながら玉鋼を拾おうと立ち上がった時、長く正座をしていたからか片足が痺れヨタヨタとバランスを崩して畳にべしゃっと転けてしまった。

「うぅ…、もうやだー。」

手を伸ばしてももうちょっと、という所で玉鋼に手が届かない。

「んー!やー!」

「主、何をしているの?」

「え、あ、えーと、何でもないよ!」

その場でバタバタしていた時、廊下から声を掛けられた。
声色でどの刀か分かる、燭台切光忠だ。
みっともない姿のまま迎える訳にもいかず、取り繕う言葉を発してしまった。

「そうかい?ならいいんだけど。」

「う、うん。ごめんなさい、何かあった?」

「朝からずっと顕現の祈りをしているから、食事をと思っ」

(スパーン!)

足の痺れなんてなんのその。
燭台切の言葉に勢いよく障子を開くと鼻息を荒らげて目をキラキラさせる。

「ごはん!くれるの!?」

「え、あ、そうだよ。持ってきたから。」

燭台切の手にはお皿に乗ったおにぎりが2つ。
腹ぺこの私にとってそれは光り輝くお宝に見えた。

「わーい!やったー!」

「頂きますしてから食べようよ、主。」

「もー、待てないよ!食べよう、ね、ほら早く入って入って。」

「いや、僕はここで。祈りの間に入るのは…。」

「大丈夫だよ。ごはんは1人で食べるより誰かと一緒にがいいなぁ。」

「そう?なら…。」

そう言うと燭台切の腕を引いて祈りの間へと通す。
2人しておにぎりを前に対面に座ると私はパン!と手を合わせた。

「いただきます!」

「どうぞ。」

まだホカホカのおにぎりを手に取ってぱくぱくと口に頬張る。
じわ〜と広がる塩味が美味しい。

「クス…。」

黙々と食事をしていると不意に笑われてしまった。
何かしただろうかと燭台切の方を見れば口元を手で覆いながらクツクツと笑っている彼。

「あ、ごめん、何か…した、かな?」

「いや…あまりにも勢いよく食べるから…ッ。」

「お腹空いてて…はしたなかったね、あはは…。」

何となく笑われるのが恥ずかしくて苦笑しつつしゅんと項垂れる。
いい歳した女の子がおにぎりにがっつくなんてよく考えたら恥ずかしい。
いくらお腹が空いていたからって、年上の人を前にみっともない事をしてしまった。

しょんぼりする私を後目に笑いが止まらない彼。
そんなに笑わなくたっていいじゃない…とちょっとムッとしてしまう。

「そこまで笑わなくてもよくない?意地悪ー。」

「ごめん、ごめん、違うんだよ。主が___だから。」

「え?」

「だから、主が可愛いから!笑ってごめんね、やっぱり僕は外に出てるよ。何かあったら呼んで。」

捲し立てるような早口で言うやいなや、燭台切は立ち上がり障子を開けて廊下へ出ていこうとする。

「ちょ、燭台切さん!待っ…」

(パタン!)

閉められた障子へ片腕を伸ばした状態固まる私。

「可愛い…可愛い…え、かわ……。」

先程言われた言葉を復唱し、かぁっと顔が熱くなるのが分かりパッと頬を両手で覆う。

「恥ずかしいよ…もー。」





障子の外_。

うちの主は本当に可愛い。
ごはんを頬張る姿が小動物みたいで、つい思っていた事が口から出てしまった。

「主に対して何言ってるんだろうね。」

軽いため息混じりに鼻頭を掻くとふと手の甲に米粒がついているのを見付けた。

「やっぱり勢いよすぎ、だよ。」

米粒をつまんで口へ運ぶ。

「可愛い…ほんと、僕の主は可愛い。」

ごはんを持って行くのなんて口実。
またごはん持って行ってあげなきゃね。









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続くかなぁ…。


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