_

□深い青と紺と群青
1ページ/1ページ




まただ。
チラチラ視界の端に





深い青と、紺と、群青





「結城、」

「ん?」

授業の終わりのチャイムが鳴ると同時かそれよりも少し早かったか、後ろの席のおかっぱ頭に声を掛けられる。
振り返ると彼は両手を顔の前でパチンと合わせ深く頭を下げていた。

「何?」

「いつものやつ……頼む!」

「また……?」

「じゃなきゃ俺が怒られんだよ、なぁ、頼むよ。」

「今日で最後だよ。」

「わりーな!じゃ、頼む。」

軽い口調でそう言うとぴょんぴょんと跳ねて教室から出ていく彼を見て現金なヤツだなぁ、と改めて認識する。

彼の言う《いつものやつ》とは彼の友人の話し相手のことだ。
ここの所昼休みになると毎回それを頼まれるようになった。

何でこんなことに?と思っていたがそれは私の不用意な一言が始まりだったのだからもう諦めるしかない。



つい先週、掃除当番だった私は放課後に彼の忘れ物(カバン)に気づいた。
先生に忘れ物を届けると「どうせ部活中だから届けてくれ」と言われ、渋々部活動中の彼を尋ねたのだった。

「すみません、向日くんいますか?」

丸眼鏡に邪魔そうな髪の毛、見た目もっさりしてるなぁ…と声を掛けた相手を見上げる。
相手は私をチラと見た後、コートでうさぎのように跳ねる彼へ声を掛けた。

「岳人、お客さん。」

「おー!なんだ、結城か!」

「向日くん、カバン忘れてたよ。」

コートのフェンス扉を開けて出てくる彼にずいとカバンを差し出す。

「掃除当番、私だったから。忘れ物されると困る。」

「わりー、わりー!あとから取りに行くつもりだったんだよ!忘れてねーの!」

「ふーん。」

元来、面倒事の嫌いな私はさっさとその場を去るため彼にカバンを押し付けると、じゃ、と踵を返す。

「あ、おい!結城、」

ボスン

「前見ろって……遅かったな。」

視線を上げれば先程彼を呼んでくれた人物がそこに立っていて、私は無礼にもその人目掛けて体当たりした形になってしまっていた。
早く帰りたい一心で…失敗した。
そこで謝ってしまえば良かったのだ。
が、

「髪の毛邪魔じゃないんですか」

「は?」

「あ…。」

考えるより先に口が動くのは私の悪い癖だ。
出会い頭から思っていたことがついポロッと言葉になってしまった。
呆然とする私を見て彼はケラケラと笑いだした。

「すげー!おまえおもしれぇな!結城ってそんな奴だったのかよ。なぁ、侑士、邪魔じゃねーのか?って!」

「うるさいで、おかっぱ。」

「あー!おかっぱ言ったな!言うなって言ってんのに!」

「本当の事を言って何が悪いんや、おかっぱ。」

「…帰ります。」






次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ