短編

□狂科学者の師父に恋をした
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「おい、貴様。」
「え…哪吒?」

玉虚宮の門前で白鶴童子と掃き掃除をしていたわたしの元を訪れたのは、なんとビックリ、哪吒だった。
まさか彼が来るとは思わず、わたしもつい狼狽えてしまう。
太乙さまが来た時の言葉は色々考えてたのに……。

「戻れ。」
「なっ……!」

金光洞に戻れということだろう。
哪吒は完成途中に見える宝貝を背負ったまま、火風輪をふかしてそこに浮遊していた。

わたしは箒をぎゅっと握り締めた。

「太乙さまの差し金?」

わたしはつい意地悪に問う。
しかし、哪吒はぴくりとも表情を動かさない。

「違う。俺の意思で来た。」

哪吒の言葉に拍子抜けする。
そりゃびっくりだわ。

哪吒がどうして…わたしを呼び戻そうと図っているんだろう?

「あの男の調子が悪い。お前のせいだろう。」

いやそんな、わたしが呪いかけちゃいましたみたいな言い方…。
わたしはふんとそっぽ向く。

「アイツはお前がいないとダメダメだ。」
「……!」

諸々と衝撃的な哪吒の言葉に、耳をそば立たせる。

「いつまで逃げ回るつもりだ。言いたいことがあるなら直接言えばいいだろう。」
「……に、逃げてるわけじゃ…。」
「なんでもいい。くだらん意地を張ってないでさっさと戻れ。」


言いたいこと、直接……。

……あれ。
なんか、哪吒が一番大人だったのかも……。




「……太乙さま。」
「紫燕……!」

太乙さまの顔は、どこかやつれているように見えて、急に申し訳ない気持ちが襲ってきた。

太乙さまはわたしをぎゅっと抱きしめる。
思わずその胸に顔を埋めてしまいたくなったけど、今日はもう少し強気でいくつもりなのだ。


「紫燕、もしかして私のせいで…?」
「そうですよ。」

わたしがきっぱり言い放つと、太乙さまは一瞬驚き顔をして、じっとわたしと目を合わせた。
真剣な顔で見つめられると、心臓はドキドキと早鐘を打つ。


「ごめんよ。もう寂しい思いはさせないから……、」

軽く突き放すつもりだったのに、太乙さまの熱に触れたら身体は火照って思考もままならない。

やっぱりわたし、あなたが好き。

「ずっと、そばに居てくれないか?」
「え…!それって…!」

一際大きく心臓が鳴って、わたしは一瞬呼吸を忘れた。

これって、この文句って、いわゆるプロポーズの……!


「哪吒みたいに…。」

……え?

「………あの、わたし、太乙さまの子どもじゃないんですけど。」

「あぁ!わかってるわかってる。ごめんねー、なんか親心みたいになっちゃってね。ほら、崑崙の仙人は弟子を猫可愛がりする傾向があるって言われてるだろう?私なんて最早自分の子みたいに、」
「…しばらく普賢さまのとこに弟子入りしてきます。」
「えぇ!?ちょ、なんでさ!?」
「普賢さまの博愛精神を学んだら色々諦められるような気がするんです…!」
「いやちょっと待ってよ!紫燕!お――い!」



太乙さまがこの気持ちを理解してくれるまで、どれくらいかかるんだろう…。

まぁ、与えられた時間はたくさんあるんだし、ゆっくり振り向かせるかぁ。








公開:2019/04/19

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