長編
□メッセージ/竹中半兵衛【短編】
1ページ/2ページ
「竹中先輩!」
「やあ、あやめ君」
今日も私は竹中先輩と仕事をする。
竹中先輩は生徒会副会長、私は書記。
会長は誰かというと、やっぱり豊臣先輩である。
校内最強の二人を支える私。
本当は“陰で”支えたかったのだけど、この二人といると嫌でも目立つ。
おまけに、他に誰も立候補しなかったため、生徒会はこの三人で成り立っている。
こりゃあ目立つわ…。
先生方は生徒会を信用しきっていて、これでもか、というほど仕事を任される。
私はコーヒーを淹れたり、生徒会室の掃除をしたり、仕事が多いときはパソコンも使って手伝うが、いつもは二人で仕事をこなしてしまうため、あまり必要がない。
会議もなかなかしないから書記としての仕事が全然ない。
「コーヒーおいしいよ、ありがとう」
「うむ、いつも通りうまいな」
「いえいえ、これくらいしかできることがないので…」
本当にその通りだ。
自分で言っておいて自分で激しく同意している。
「そんなことないよ。良い提案をしてくれるし、パソコンのタイピングも速い。助かっているよ」
秀吉もそうだろう?と微笑んで言って豊臣先輩がうむ、と言う。
なんか、けっこう褒められた。
「…あ、ありがとうございます」
嬉しくて声が裏返りそうになりながら、なんとか言いきった。
その時、四時を告げるチャイムが鳴り、あまり仕事のなかった今日は解散となった。
玄関まで来たところで忘れ物に気がついた。
「まぁ、いっか。…あ、明日課題提出だった…」
仕方なく、忘れた荷物を取りに教室へ行く。
そこには誰もいない。
日が傾き、夕日が教室を橙色に染めている。
それは昔を思い出させるような、どこか哀しい色に見えた。
そう。
とても哀しい、両親との死別の記憶。
それが何故だか美しくて…。
「あぁ、綺麗だなぁ。」
ふと、視界が滲んでくる。
「あれ?」
何だろう…?
不思議に思い、軽く目を擦る。
「ん?…水?」
一瞬後に涙だと気づいた。
止まらない涙を暫く拭っていると。
「…あやめ君?」
半兵衛先輩だ。
はっとして振り返ると、教室の入り口で心配そうな顔をした半兵衛先輩がいた。
その姿を見て、私は泣き崩れてしまった。
「っ、ごめん、なさい」
急に安心したせいで、また涙が止まらなくなった。
こんなところ見せたくない。
声を殺して、顔を覆って、それでも涙は止まってくれない。
言葉すらまともに紡ぐことができない。
もうこのまま走って帰ってしまおうか、と考えていると、急に背中が温かくなった。
「っ!!」
「あやめ…。大丈夫だよ。僕は此処にいるから」
恐る恐る顔を上げると、そこには見たことないくらい優しい顔をした半兵衛先輩がいた。
「何処にも行かない。ずっとあやめの傍にいる。あやめが僕に笑顔を向けてくれなくなっても、ずっとね」
“ずっと傍にいる”という告白のような言葉。
(いやいや、そんな訳ないよね。ある筈ないない。半兵衛先輩メチャクチャモテるからねぇ)
そう思っていたのに、トドメの一言。
「愛してるよ」
「ふぇっ!?」
甘い声で囁かれたその言葉に、頭がパニックになり、涙も止まる。
(え、マジで?本気?正気?半兵衛先輩大丈夫かなぁ。ってか“ふぇっ”って何、私!?)
一瞬半兵衛先輩の心配もしつつ、やっぱりパニックになっている私の頭。
なのにまだ続けてくる。
「ねぇ、あやめ。絶対離れないよ。君は僕のこと…嫌い?…嫌いなら、」
「嫌いな訳ないです!!」
今までのパニック状態が嘘のように、キッパリと言いきった。
「そうか…、良かった。嫌いって言われたら…閉じ込めてしまおうかと思っていたんだ」
「閉じ込め………ん?」
(え、怖っ)
「いや、何でもないよ。…あやめ、僕のこと…好き?」
「…………好き…ですよ…?」
「本当に!?」
コクコクと静かに頷く。
突然さっきまでとは違い、嬉しさを含んだ声で言われ、驚きと恥ずかしさが入り雑じった気持ちになる。
「…あやめが彼女なんて、すごく嬉しいよ」
まだ“好き”しか言ってないんだけどなぁ、と思いつつもとても喜んでいる自分がいることに気がつく。
「…半兵衛先輩…………好きですっ!」
どうしても抑えられなくて、思わず半兵衛先輩の胸に飛び込む。
それを抱き締めて、撫でてくれる半兵衛先輩。
今度は嬉し涙が出そうだと思いながら、これまでにない幸福を暫く味わっていた。
あとがき→