長編

□メッセージ/竹中半兵衛【短編】
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「竹中先輩!」

「やあ、あやめ君」

今日も私は竹中先輩と仕事をする。





竹中先輩は生徒会副会長、私は書記。

会長は誰かというと、やっぱり豊臣先輩である。

校内最強の二人を支える私。

本当は“陰で”支えたかったのだけど、この二人といると嫌でも目立つ。

おまけに、他に誰も立候補しなかったため、生徒会はこの三人で成り立っている。

こりゃあ目立つわ…。



先生方は生徒会を信用しきっていて、これでもか、というほど仕事を任される。

私はコーヒーを淹れたり、生徒会室の掃除をしたり、仕事が多いときはパソコンも使って手伝うが、いつもは二人で仕事をこなしてしまうため、あまり必要がない。

会議もなかなかしないから書記としての仕事が全然ない。

「コーヒーおいしいよ、ありがとう」

「うむ、いつも通りうまいな」

「いえいえ、これくらいしかできることがないので…」

本当にその通りだ。

自分で言っておいて自分で激しく同意している。

「そんなことないよ。良い提案をしてくれるし、パソコンのタイピングも速い。助かっているよ」

秀吉もそうだろう?と微笑んで言って豊臣先輩がうむ、と言う。

なんか、けっこう褒められた。

「…あ、ありがとうございます」

嬉しくて声が裏返りそうになりながら、なんとか言いきった。

その時、四時を告げるチャイムが鳴り、あまり仕事のなかった今日は解散となった。

玄関まで来たところで忘れ物に気がついた。

「まぁ、いっか。…あ、明日課題提出だった…」



仕方なく、忘れた荷物を取りに教室へ行く。

そこには誰もいない。

日が傾き、夕日が教室を橙色に染めている。

それは昔を思い出させるような、どこか哀しい色に見えた。



そう。

とても哀しい、両親との死別の記憶。

それが何故だか美しくて…。

「あぁ、綺麗だなぁ。」

ふと、視界が滲んでくる。

「あれ?」

何だろう…?

不思議に思い、軽く目を擦る。

「ん?…水?」

一瞬後に涙だと気づいた。

止まらない涙を暫く拭っていると。





「…あやめ君?」

半兵衛先輩だ。

はっとして振り返ると、教室の入り口で心配そうな顔をした半兵衛先輩がいた。

その姿を見て、私は泣き崩れてしまった。

「っ、ごめん、なさい」

急に安心したせいで、また涙が止まらなくなった。



こんなところ見せたくない。

声を殺して、顔を覆って、それでも涙は止まってくれない。

言葉すらまともに紡ぐことができない。

もうこのまま走って帰ってしまおうか、と考えていると、急に背中が温かくなった。

「っ!!」

「あやめ…。大丈夫だよ。僕は此処にいるから」

恐る恐る顔を上げると、そこには見たことないくらい優しい顔をした半兵衛先輩がいた。

「何処にも行かない。ずっとあやめの傍にいる。あやめが僕に笑顔を向けてくれなくなっても、ずっとね」

“ずっと傍にいる”という告白のような言葉。

(いやいや、そんな訳ないよね。ある筈ないない。半兵衛先輩メチャクチャモテるからねぇ)

そう思っていたのに、トドメの一言。





「愛してるよ」

「ふぇっ!?」

甘い声で囁かれたその言葉に、頭がパニックになり、涙も止まる。

(え、マジで?本気?正気?半兵衛先輩大丈夫かなぁ。ってか“ふぇっ”って何、私!?)

一瞬半兵衛先輩の心配もしつつ、やっぱりパニックになっている私の頭。

なのにまだ続けてくる。

「ねぇ、あやめ。絶対離れないよ。君は僕のこと…嫌い?…嫌いなら、」

「嫌いな訳ないです!!」

今までのパニック状態が嘘のように、キッパリと言いきった。



「そうか…、良かった。嫌いって言われたら…閉じ込めてしまおうかと思っていたんだ」

「閉じ込め………ん?」

(え、怖っ)

「いや、何でもないよ。…あやめ、僕のこと…好き?」






「…………好き…ですよ…?」

「本当に!?」

コクコクと静かに頷く。

突然さっきまでとは違い、嬉しさを含んだ声で言われ、驚きと恥ずかしさが入り雑じった気持ちになる。

「…あやめが彼女なんて、すごく嬉しいよ」

まだ“好き”しか言ってないんだけどなぁ、と思いつつもとても喜んでいる自分がいることに気がつく。




「…半兵衛先輩…………好きですっ!」

どうしても抑えられなくて、思わず半兵衛先輩の胸に飛び込む。

それを抱き締めて、撫でてくれる半兵衛先輩。



今度は嬉し涙が出そうだと思いながら、これまでにない幸福を暫く味わっていた。



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