その武人、刻を渡られよ

□過去
1ページ/5ページ

海羅に見張りや監視をしないようにと言われてはいたものの安心する事もできず、大和守安定(やまとのかみやすさだ)は朱清の部屋を見張り、夜を越そうとしていた。

見習いなんてろくな奴もいない、そう言って今回一番に反対をしていたのが彼である。
相部屋の加州清光(かしゅうきよみつ)が寝たのを見計らって障子を少し開けた隙間から今から裏切りをするであろう奴の動向を見守る。もちろん、傍らには自分の本体がある。いつでも抜けるようにと右手で鞘を撫でると、朱清の部屋の障子が開いた。

四つん這いになって出てくる見習いは左手で浴衣の合わせを強く皺になってしまいそうな勢いで掴み、右手は右腿を触るように彷徨っていた。顔面蒼白になっており、汗を大量に掻いているようだった。
明らかに異常なその様子に思わず刀を置きかける。何が起きているのか全く分からない突然の出来事に思考が停止する。

「何やってんだよお前っ!」
後ろからいつもブスブス言ってくる相棒の焦る声が聞こえた。
清光は自分の羽織を引っ掴むと見習いの元へと走って行った。背中をさすって声を掛けている。その声に彼女は首を振っていた。
清光がこちらを見た。長年一緒にいる仲だ、言いたい事はすぐに分かる。他の刀剣男士たちを起こさないように小走りで審神者部屋へと走った。

「主、緊急事態なんだ、起きて。」
そう声を掛けながら障子を思い切り開けた。
がばっと起き上がった主はぐしゃぐしゃの髪で何!?敵襲!?と言っている。
「違うよ。あいつが...見習いが発作かなんか起こしたみたいで、今清光が介抱してる。」

"緊急事態"の割に随分と冷静な声が出たもんだと自分でも思いながら主の背中を追いかけて行く。
主は清光から彼女の様子を聞きながら、彼女に何かを呟いていた。
近づいてみると息苦しそうに呻く声と主の呟く声が聞こえてきた。
「大丈夫、大丈夫。ここに敵はいない、君は安全なんだよ。さぁ、ゆっくり息をしてごらん。僕の所まで意識を持っておいで。」
初めて自分が重傷になり、パニックに陥った時のような優しい声音だ。そんなに危ない状態なのか。
声を聞きつけたのかすぐ側の部屋からにっかりがそろりと出てきた。
「青江(あおえ)、起きたばかりで悪いんだけど薬研を起こしてきてくれないか。後、暖かいお茶をお願いしてもいいかな。」
状況を一目で察知したらしく寝ぼけ眼からいつもの鋭い目に変わり、すぐに部屋から出て行った。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ