その武人、刻を渡られよ

□過去
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目が覚めると右手に愛銃を持っていた。いつの間に返ってきたのか。
まわりを見渡してみるとここは戦場のようだ。それも自分のいた所ではなく、政府からの手紙に添えてあった写真のような昔の戦場である。
奥に何かが見える。"歴史遡行軍"なのだろうか。
いつ戦闘になっても大丈夫なようにと近くの茂みに隠れ、銃を構える。

闇を身に纏う遡行軍が目の前を通り身体に緊張が走った瞬間、銃を構えた腕を掴まれ強く引かれた。抵抗する間も無く後ろへ転けた先には血だらけで虫の息の兵士がいた。
「ひっ...!」
いつの間にかさっきまでの景色は消え、どこか懐かしさすら感じる場所にいた。しかし、おびただしい数の死体とバケツをぶちまけたような赤い血が辺り一面を覆っている。

自分を引っ張った兵士は昔自分が射殺したはずの人間であり、よく見てみると周りに倒れているのは自分が殺してきた敵の兵士や泣く泣く見殺しにしてきた味方だった。

「レイン...軍曹か?」
信じがたい光景に何も考えぬまま銃を向ける。
目の前には刑務所送りになったはずの上官がいた。

走馬灯のように蘇る過去のトラウマに思わず腰が抜けて座り込む。その瞬間に胃から何かが込み上げてくるのを感じたが、愛銃をぐっと握り直すことで我慢する。
「何であんたがいるんだ!こんな所にいるはずがないっ!」
「俺は本物だぞぅ?何だ、疑うのならその頬引っ叩いてやろうか、触ってやったっていいんだぜ?昔のようになぁ?」
明らかに異常な様子でニヤニヤと君悪く笑いながら四つん這いになって寄ってくる。
「来るなぁっ!」
悲鳴にも等しい声を上げると引き金を引き、今にも触りそうな右手を退けるように右肩を撃つ。
止まらない。何度撃っても一瞬動きを止めるだけだった。
ついに上からのしかかられた時、真琴の当てた銃痕から血が滴り落ちてきた。反射的に腕で防ごうとしてしまった為に上官が銃を奪い遠くへと放る。
無防備となった真琴を見た上官は口周りを流れる血ごと舐め彼女の腕を纏めようともぞもぞと動いた。
上官の力が弱まっているのを感じた真琴は上官を蹴り飛ばし一瞬の隙を突いて抜け出しそのまま殴ろうと手を振りかぶった。
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