その武人、刻を渡られよ

□月夜
1ページ/2ページ

「朱清さん、お風呂とか説明したいからそろそろいいかな?」
海羅歩み寄ってくるのに気づくと
周りの人を見渡し挨拶をした。
「けほっ、ここで失礼します。おやすみなさい。」
「うむ。明日から忙しくなりそうな、よく休まれよ。」
「おやすみ!」
そう声を掛けられる中部屋を出ると廊下で海羅が待っていた。
「大分慣れてきたみたいだね、良かった。」
話しながら歩みを進める海羅にウォルターが話しかける。
「まだまだ、ですかね。...海羅さん、前の見習いの事を聞きました。その事で疑問あって。
見習いの事で小夜さんの質問に答えたら、彼は私を少なからず認めてくれたんです。それに対して獅子王さんが"名前"について焦っていらした。何故なのか分からなくて。」

海羅は静かに聞いていたが広い縁側で足を止め、ちらりと周りを見ると座りウォルターにもそうするように促した。
「最初の注意で君の名前を絶対に出すなって言ったよね、それと理由は似ている。霊力とか神力の強い者が叶えたい事を強く、その事だけを考えながら話して本当に叶えさせる事を"言霊(ことだま)"って言う。
人間の場合ね、名前はその事だけを考えなくても、強く思わなくてもぽろっと言うだけで効力を持つんだ。刀剣男士の場合はそれなりに思わなくてはいけないけれどね。ここが神力と霊力の強さの違いが出るところ。
審神者の世界ではうっかり本当の名前を言った人間が刀剣男士に連れ去れる"神隠し"が起きたりする。逆にさっき小夜が話していたみたいに神は大事な約束をしたりする。
だから君の為にも、みんなの為にも原則として名前を明かしてはならないんだ。」

なるほどと頷くのを見ると海羅は懐から竹筒を出した。不思議そうな顔をするウォルターをよそに中の物を空中に撒くようにしながら結界を張る言葉を呟く。
「清酒だよ、これで僕たちの会話が聞こえる刀剣男士はいない。君の名前を言っていなかったからね、僕の私室よりも開けている方が盗み聞きされないで済む。」
「私の名前?アヤセではなくですか?」
「それは審神者名。今から教えるのは神に教えてはいけない真名のことだよ。
ウォルター・F・レインでは同一人物としてダブってしまうからね、存在する未来は変えられないけどせめて名前だけでも変えなくちゃ。
それで名前なんだけど、これね。口にはまだ出さないで。」

そう言いながら差し出された紙には審神者登録証と書かれ、さっきまで分からなかった"朱清(あやせ)"の文字と本名に"美水 真琴(うつみ まこと)"と流麗な文字があった。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ