その武人、刻を渡られよ

□邂逅
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「やっと見つけたっ!もう、凄い心配したんだぞ!?まだ何にも話してないのに!だから側にいると言ったのに!」
ぜーぜーと息を吐きながら汗を拭いもせずに話す青年に
「良いではないか。もうここにおるのだ。」
青年とは対照的な話し方をする小烏丸にお父さんも勝手にどこか行かないで!と言うと、んふふと微笑み、何処かへ行ってしまった。

「さて、色々と聞きたがっているとお父さんからは言われたけど、僕はまだ何も説明してないからね。それを聞いてから質問でも何でもしてくれよ?本当は病室で全部済ませるはずだったんだから。」
少し責めるような口調に知るかと心の中で罵ると話を促すように小さく合図をする。

「あ、お父さんから翻訳機は受け取ったんだね、良かった。そうだな、まずは自己紹介でもしとこうか。僕の名は海羅(かいら)という。あ、君の名前は言わないけど、知っているからね。この世界ではその名前、絶対に口にしないほうがいい。死にたくないならね。それからこっちが近侍...秘書といえば分かりやすいかな、燭台切光忠(しょくだいきりみつただ)というんだ。」さくさくと説明する様は流れるようでとても上手だった。

彼から渡されたマニュアルと説明によれば、今は2253年、つまり自分がいた頃から136年前になる。
何年か前に教わった「時の政府」の知識と合わせて考えると今までは現代の現世から審神者を採用していたが、それでは間に合わず未来からも採用する事にした。因みに過去から連れて来ようとした時は瞬く間に灰と化したらしい。
そして未来から連れてくる初めての試みが自分であると。
実験段階の上設備もまだ開発が間に合っていないため、未来に行く事はその命を代償にする事となった。飛ぶ前の時間になるまで私の時間は止まり歳をとらなくなるし死ぬ事すら出来ないが、なった瞬間に同時刻に全く同じ人間が存在するという矛盾を解消する為に私が消えるという事。
私と全く同じ存在がいる以上は戻った所で瞬間的に死ぬ。いわばドッペルゲンガー的なやつだ。
つまりは211年というタイムリミットまで時の政府のもとで働け、といったところか。何という理不尽。
現世に行けばどう空間が歪むか分からない上に自分もどうなるか分からない、逃げる事など許されない。

「僕もギリギリまで反対したんだ。」

歯を食い縛り苦々しい顔をする海羅は本当に心苦しそうだった。
「でもいくら上に言ったところでどうにもならなかったんだ...せめて、せめてこの戦争で理不尽な死に方をしてほしくはないと思ったんだ。だから、ここから大体1年半を掛けて君にここで生きる術を叩き込みたい。頼む、君の力を、貸してはくれないだろうか。」
床に擦り付けるように頭を下げるとそれに習って伊達男...もとい燭台切光忠も同様にしていた。
「頭を下げたところで」
今まで喋れなかった分、感情を抑えた分が押し寄せてきた。
「どうせここで縛られ一生を終えるのに変わらないんだろ。本当なら私に関わったクソ野郎どもを吊るし上げるところだが...。生きる術とやら、本当に役立つんだろうな?生半可な事、絶対に教えてくれるなよ?」
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