その武人、刻を渡られよ

□邂逅
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「そち、まさかあやつらから逃げうるとは。」
あまりの気配のなさにびくりと身体を震わせると声の主を見上げた。小柄な身体に赤と黒の服を纏うその人は腰に重々しくも美しい剣を携え、人間とは思えない色白の顔に笑みを浮かべて佇んでいた。
強い存在に圧倒されたウォルターはじりじりと後退りをする。

そんな彼女に対し、袖の中からインカムらしき物とよく軍で使われている首につける無線機のような物を押し付けるようにこちらへ渡し、自分の首と耳を指して何か喋ってきた。恐らくつけろと言っているのだろう。渋々受け取りそれをにつけるとはっきりと理解の出来る声が聞こえてきた。
「ほれ、きちんと聞こえておろう。何か話してみよ。」
「あんたは誰なんだ。ここはどこだ、出口は」
「怯えるでない、女子よ。取って食ったりなどせんぞ。我が名は小烏丸(こがらすまる)。今の形の日本刀が生まれ出づる時代の剣よ。追われておるのだろう、ついて参れよ。そちの問いの答も安らぐ場もある。」
自分の発言を遮るように話す小烏丸は無駄のない動きで華奢な手を差し出した。

右も左も分からぬ状況の中手を差し伸べてくれるのは非常にありがたいが、得体の知れぬ人...人ですらないような雰囲気を出す者について行っても良いものか。
決めあぐねていると小烏丸が「来い。」という先程とは打って変わった低い声を自分の身体に響かせた。
「...っ⁉」
考える間もなく自然と身体が小烏丸の後をまるで雛のようについて行っていた。ふわりと微笑むと道を知っているのか路地裏をすいすいと進んで行く。

ある程度進んだ所でひたりと止まると、またも袖の中から博物館でしか見れないような古い型の端末を出した。手慣れたように操作をすると目の前の地面から赤い鳥居が生えてきた。
そう、生えてきたのだ。目を疑ったが、小烏丸はものともせずにウォルターの手首を掴み鳥居をくぐって行った。

くぐった先は先程とはまるで違う大きな建物だった。建物は昔本で読んだ本にあった...日本家屋が堂々と構えていた。

立て続けに起こる不可思議極まりない光景に思わず口が惚ける。
「どうした、圧巻であろう。今、主を呼び戻しておる故客間で待たれよ。」
風や鳥の鳴き声が聞こえる中、会話もせずに小烏丸の後をついて行く。

ここまで緑に囲まれる環境は初めての経験だった為か軍人の癖というべきか目線だけで周りをキョロキョロと見回しながら歩いて行く間に客間らしき部屋にたどり着いた。壁がほとんどないその部屋は外の美しい庭がよく見えた。
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