その武人、刻を渡られよ

□邂逅
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ウォルターが目を開けた時、見えたのは真っ白な天井だった。こんなもの久しぶりに見たなどとたわいもない事を考えていると誰かが近寄ってくる音がする。

顔を覗き込んでくると何か話しかけてきた。
言語が分からない。恐らく昔母親が話していた日本語なのだろうか、何となく聞き覚えのある口調だった。言葉が通じていない事を認識したのか小さく顔をしかめるとどこかへ行ってしまった。

周りに誰もいなくなった事を確認すると自分の状況を観察しはじめる。
これは...病室か?自分は病院にいるらしい。ついでに点滴までしている。腕を目線で辿るとドックタグは着けているものの着替えて身綺麗になっている事に気がついた。自分の愛銃がない事にも。
はっとすると慌てて起き上がる。あれがなくては身を守るのは難しいし、頭と腹がじくじくと痛む中では格闘も満足に出来ないだろう。
ぞわりと身体が震えると同時に「ふっ」と小さく息をついた。とにかくここから出なくてはならない。隠れる場所を探さなくては。ちらりとドアから顔を出すと遠くの方に先程部屋に入ってきた人が再び何かを持ってこちらに向かって来ているところだった。

歯を食いしばって痛みを堪えながらキレイに洗濯され折りたたまれていた自分の服を着ると手元にあったタオルのようなものを何枚か引っ掴み1枚を片手に、残りをズボンに挟み込んだ。

入ってきた人を後ろから羽交い締めのようにするとタオルを口に挟んで縛る。そのまま手足を縛ると暴れるのも気にせず地面に転がした。「すまない。」そう一言口にするとそっとドアから出て行った。

広い病院内をあてもなく彷徨うと玄関らしきところから外へ出た。
「何だ、ここ。」
思わず呟く彼女の前には様々な店が所狭しと並び、見たこともないカラフルな服を着た人々が歩いている。よく見れば目も逸らしたくなるほどの美形な青年も大勢歩いていた。

「いたぞっ!捕まえるんだ!逃すんじゃないぞ!」
病院の中からの怒声を聞くと慌てて人混みの中へ飛び込み逃げ出した。どこに逃げようなどと全く考えもせずにただひたすら走っていた。

追っ手から距離を取った所で暗い路地裏へ滑り込み息を潜めた。真横を走って抜ける奴らを確認すると、ゆっくりと息を吐き先ほどからバクバクとうるさい心臓を落ち着かせる。
これから武器もなしにどうしようか、どうやってここを抜け出そうか、そう考えている時だった。
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