その武人、刻を渡られよ

□月夜
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「名前、ウォルター(Walter)で水(warter)から来てるでしょ?それと君の青くて美しい目と合わせてみたんだ。"真琴"は君の信念がぶれないように。いい心を持っているのはみんなが知っているからね。
審神者名はお父さんが決めてくれたんだ。
我が最初に見初めたんだからいいよのう?って脅されちゃってね。
意味は...教えてくれなかったんだ。良かったら今度機会のある時に聞いてみて。
さてと。さっき言った通り、言霊を使って自分の名前だということを確実なものにするんだ。
神道の考え方では僕たちの周りにあるもの全てに神が宿っている。彼らに宣言しなくてはならないんだよ。」

確かに水からきた名前だった、何物でも包み込める柔軟で優しい人間になれるようにと亡き両親が言っていた。
良い名前、日本語が分からずともそう直感で感じたウォルターは審神者登録証を手に取ると目の前に持ち上げる。

「私の名前は"美水 真琴"、審神者の見習いである。」

ゆっくりとはっきり発音する。風がそよりと頬を撫でて水がちゃぷりと音を立てた。自然が真琴の声に応えたのだ。
「うん、認めてくれたみたいだね。僕の時は反応が薄くてなぁ、ただの悪戯心だったらしいんだけど神様ってのは軽々しいんだから。」
からからと笑いながら呟く海羅を横目に自分の中で名前を反芻する。
無言の時間がしばらく過ぎると真琴に声を掛けてきた。
「大丈夫だよ、きっと君は良い審神者になる。僕が保証するよ。それに、今とても静かだろう?何かがあると自然は何かしらの反応を起こすんだ、分かりづらい時もあるけれどね。」
「静かというのはどういうことでしょうか。
今は風も虫の鳴き声も多くの音が聞こえます。私のいた所とはかけ離れて静かではありますが。」
「うーん、静かっていうか空間が落ち着いている感じかな。空間が落ち着くなんて普通の人に言っても通じないからね、霊力に理解のある者なら分かる。君も分かるようになるよ。」
そんな事も分かるようになるのかと目には分からない審神者のすごさを知り驚く。
「よーく周りを観察しておくと良い。今日は特に...あぁ、月がとても綺麗に見えているね、十五夜が近いからかな、良い月夜だ。
そんな事でいい、知識が無くたって大丈夫なんだ。
さて、話し込んでしまったね、簡易の結界だからもうすぐなくなってしまうんだ。」
先程撒いた清酒は蒸発しきる手前だった。
「後はお風呂とかだね。審神者登録証は僕が責任を持って出しておくよ。」

生活面の説明が一通り終わると海羅はよっこらせ、という声と共に立ち隣にいる真琴を見る。
「明日から忙しいからね、じゃあおやすみ。」
「おやすみなさい。」
海羅が私室へ向かうのを見届けた真琴は月を見上げる。今まで気にも留めなかったが、大きく、美しい月だった。自分の影が見える程に輝いており、月明かりによって庭ですら昼間とは違う何かを放っていた。
「ツキヨ。」
海羅の言っていた言葉を日本語で片言ながら繰り返し呟く。真琴は新しく知った言葉を書いてからお風呂にでも行こうかと自室に入っていった。
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