その武人、刻を渡られよ

□刀剣男士
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「主、お話中失礼するよ。見習いを迎えに来たんだが。あれ、障子が歪んでいるじゃないか。気がつかなかったのかい?」
カタカタと変な音を出しながらも藤色の髪を綺麗にまとめた男、恐らく神なのだろう男が美しい所作で部屋に入り、海羅の横で正座をした。

「げ、さっきので壊しちゃったか。悪いね蜂須賀さん、明日にでも直すよ。それはさて置いてこちらが蜂須賀虎徹(はちすかこてつ)。僕は蜂須賀さんと呼んでいるんだ、それでこちらが見習いさんね。審神者名は後のお楽しみだから取り敢えずはこれで。」
「分かった。君の荷物も届いたから確認もしてほしい。」
自分の荷物と聞いてすくりと立つ。が、途端に足からふらりと力が抜けた。何だと驚きの目を自らの足へ向ける。

「足が痺れたの?ま、それも慣れるから大丈夫だよ。」
海羅が笑いながら言う。
"足が痺れる"という初めての体験にまだ自分がこの環境に慣れていない事を痛感させられる。
唇を小さく噛むと足にぐっと力を入れて立ち上がる。大丈夫だとでも言うように蜂須賀...さんに目を向けた。

蜂須賀さんはそれを見て小さく頷き、またカタカタと扉を鳴らして出て行く。
それに続くようにウォルターも外へ出ると少し進んだ所で彼女の事を待っていた。

「俺は彼の初期刀でね、一番古くからここにいるんだよ。だから彼の良さも性格もよく知っているつもりだ。...もちろん悪いところもね、だから今のうちに言っておく。彼は自分を下げて見がちなんだよ。さっきも外から聞こえたけど、俺達刀剣男士について敬うように言っていたね。だけどそれは審神者という彼にも当てはまる事だ。これからは彼を師としていくんだから、軽率な態度を取ってはいけないよ。」
蜂須賀さんは本当に彼の事をよく思っているようだ。ウォルターを連れ歩きながら少し誇らしげに話している様を見るとこちらも守らねばという気持ちになる。
「分かった。ありがとう...ございます。」
なんとも変な言い方で返事をした。
ははっ、と笑うと徐々に慣れていけばいいさと優しげに話す。
しばらく本丸というこれからの家を案内してもらいながらすれ違った刀剣男士の紹介もしてもらった。
どうやら刀剣男士は思っていた以上の個性を有するらしく、刀剣としての記憶とその見た目が大きく関わっているようだった。

「ここが君の部屋だ。夕食の18時頃に呼びに来るからそれまで荷をほどいたりでもしているといい。前の生活とこちらの生活は全く違うと聞いたから最初のうちは指示やらうるさいだろうがきちんと守るように。それからさっき政府から君宛ての手紙が届いたから渡しておく。...これからよろしく頼むよ、見習いさん。」
「よろしくお願いします。案内、ありがとうございました。」
普段の話し方からはかけ離れた丁寧な言葉をゆっくりと話す。蜂須賀さんは満足そうな顔をすると元の道を戻っていった。
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