その武人、刻を渡られよ

□邂逅
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「あ、あぁ!当たり前だ。基礎から...泥臭い所まで全てだ、この本丸にいる全員が教鞭をとらせて貰おう。」
ほっとした安堵感と真剣味を混じらせたその表情に嘘偽りは見えず、信頼するに値するものと思えた。
とはいえ、ただ決意を表明しただけでは意味などなさないし、こちらからも要求はある。
「了承したとはいえいくつか条件を出させてもらう。それから決めた事の証明になる物もほしい。それに応えられるならそれなりにこちらも応えよう。何か書けるものを寄越してくれ。」

「これでいいかい?証明書は今日中に僕が書くから。」
燭台切光忠が紙とペンを渡してきた。受け取るとさらさらと書き出す。

書き終えた紙を渡すと海羅はじっとその条件を読みだした。
「条件というのは何なんだい?まさか射撃場でも用意しろなんて言わないよね?」
光忠の言うような無茶な要求はなかった。
どれも実現可能だし、無理矢理連れてこられて政府に不信感しか持っていない彼女からしたら当たり前の条件だ。
「簡単な事だ。私の持ち物を全て返せ。銃が危険だなんて聞かない、無闇に使いはしないから構わないだろ。それから監視なんて要らない。どうせ帰れないんだからプライベートの時間くらいはほしいな。それから、」

言葉が途中で止まった事を不自然に思い彼女に視線を移すと、ほんの一瞬だけ眉間に皺を寄せた後に最後の条件を続けた。
「私だって女だ。シャワーとか...その辺の配慮をしてほしい。」

「...分かった。銃の持ち込みに関しては多少時間をもらうかもしれないが、他はすぐにでも話を通してもらうようにするよ。」

恐らく全て大丈夫だろう、これだけイレギュラーな存在なんだ。当たり前の配慮と言っても過言ではない。後はここで過ごす上での注意事項は言わなくては。
「最後になるけど、ここで生活していく為の注意事項だよ。まぁ、常識的な範囲にはなるんだけど。」
そこで言葉を切ると座り直した。
察したのか、ウォルターは身体ごとこちらを向いた。

さっきからの言動と言い、環境への適応能力は高い事が伺える事に多少の安心感を覚える。
「機会が来たら必ず詳しい事は教えるから、ここでは質問はなし。とにかく必ず守るんだよ、いいね?
まず君の名前は絶対に口にしない事。無闇に喧嘩をして武器を出さない事。これは君の安全の為だ。
それから、ここにいる僕以外の刀剣男子たち全員に敬意を持って接する事。君だって上官に対して無礼な事はしないだろう?
ましてや彼らは神の一員だからね、それをきちんと踏まえてくれ。無理なら下手に敬語を使う必要はないけど、それなりの話し方くらいはするんだよ。

...ま、こんな所かな。生活面のあれこれは蜂須賀に任せるとして。後は君の審神者名を決めなくては。」

何が良いだろうか。これから100年は使う名前だ、きちんと思いを込めたものを与えてやりたい。...が、簡単に思いつくわけもなく。
「そう、だね。今日中には必ず決めよう。もう夕方だから、夕食の時に皆に紹介がてら発表しようかな。」
燭台切光忠は主が彼女に対して少しでもこの環境に馴染んでほしい故のお茶目だと気づき口元を少し緩めたのだった。
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