泡沫の夢
□2つのルート
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そう、例えばそれは虫の知らせとか、不穏な空気とか、胸騒ぎとか呼ばれるもの。
今日も今日とて何の変化もないいつも通りの日常を過ごすぞー、って自分に言い聞かせてベッドから起き上がった時、そんな変な感覚に陥った。
あたしの日常がナニカによって脅かされようとしている、そんな危機を敏感に感じ取って、あたしはいつもより早く家を出た。
橘花「(数学の小テストが返ってきて悪い点だったから補習・・・とか、そーいう日常チックなプチ非日常かな?)」
そうだったらいいのになー、なんて考えながら1つ目のバス停へ向かう。
そしたら後ろで変な気配がした。
橘花「・・・・・・」
スタスタスタ
橘花「・・・・・・」
やっぱり、まだついて来る。
一体何なんだ。
橘花「だ〜るまさんが・・・こ〜ろん、だっ!」
バッと振り返る。
橘花「今日の修業は夜からじゃないの?」
振り返った先にいたのはストーカーとかじゃなくてあたしの恩人でありお師匠様。
今から修業とか・・・全力で避けたい。だって学校あるし。
とか思ってたらいつもの仏頂面でおししょーさまが吐き捨てた。
飛影「隙だらけだな」
橘花「毎日気はって生きられないよ、しんどいし。
で、何の用?夜じゃなくて朝に会いに来るんだから何かあるんだろ?」
飛影「・・・・・・」
橘花「黙ってたら何も分からないんですけどー」
飛影「・・・―――はあるか」
橘花「え?」
飛影「ビデオデッキはあるかと聞いている」
橘花「は?ビデオデッキ?うちに?何でまた?」
飛影「質問に答えろ」
橘花「ありますけどー」
あったら何なんだ?
そう思って飛影を見てたら、この人何て言ったと思う?
飛影「じゃあ行くぞ」
橘花「おい、それはもしかしなくてもうちに来ると言うことか。桑原とか蔵馬んちはどーなのさ。デッキぐらいあるだろ・・・って、聞けェ!!」
あたしの言葉なんか総スルーで、スタスタと歩いて行きやがる。
おかしい!絶対おかしいよ、この人!言葉のキャッチボール皆無だよ!!いや、今に始まったことじゃないけどさ・・・。
これか?これなのか?あたしの嫌な予感の正体は・・・!?
学校行かなきゃなのに・・・!もうバスに間に合わないよ。
橘花「飛影さ〜ん、説明してくださいな〜」
飛影「窓は開いてるか?」
彼女の家を見て言う。
橘花「ちょっと待て。窓から入るつもりか、お前は(微黒」
返事を返さないで、一瞬で移動しようとする飛影の腕をあたしは咄嗟に掴んだ。
軽く睨まれたけど気にしない。
だって、今からあたしが言うことは結構重要なことだし。
橘花「あたしの家、触ったり、入ろうとした時点で妖怪はケガして、幽霊は跳ね返されると思う」
飛影「どういう意味だ?」
橘花「あー・・・う〜んと、誰にも言わない?」
飛影「さっさと話せ」
橘花「うちの家は不浄のモノを受け付けないようになってるんだ。
物心ついた時から霊感があって、色々視たくないものを視てたあたしを想って、お父さん達が凄腕の霊能力者さん?に頼んで家に結界的なものを施したんだって」
そのおかげかどうかは知らないけど・・・
幽霊とか妖怪だとかは今の今まで家の近くで視たことない。
だから、ってあたしは続ける。
橘花「あたしの家に入るなら、通行証的なモノ?を持ってもらわなきゃいけないんだけど・・・いいか?」
返事はない。拒否もしてこない。
ってことは、別にいいってこと・・・なんだよな?
探るように飛影の顔を見れば、早くしろって目で急かされたような気がした。
橘花「ん、じゃあちょっと家の前で待っ―――Σうおわっ!?」
待ってて、って言って家に戻ろうとしたら急に担がれた。
お姫様抱っことか、そーいうのではなく腹に腕を回されて荷物みたいに小脇に担ぐっていう担ぎ方だ。
で、そのまま一瞬であたしの家の前に。
うわー、はやーい・・・じゃなくて!!
橘花「担ぐ前に一声かけてよ!危うく舌噛むところだったじゃんかぁ!」
飛影「一声かけたら貴様は暴れるだろう」
橘花「快く担がれることを了承する奴がいたら会ってみたいよ」
絶対そんなのマンガとかゲームとかアニメとか、二次元の世界にしかいないと思う!
三次元にいたとしてもそれはケガをした人とか、体調が悪い病人とかだわ!
ってなことを言ってやりたい、本心なら!
けど、そう言ったら言ったで話が長くなって本題に入れないと思うから止めた。だって、学校に行かなきゃいかないから。
だからため息を吐くことで言葉を飲み込んで、あたしは飛影に渡す通行証的なモノを取ってくるべく家に入る。
数分後、ビー玉サイズの黒水晶を入れたお守り袋を持って、律儀に家の前に待ってる飛影の許へ行く。
橘花「はい。これ持ってたら出入り自由だよ。ただし、靴は脱いでね」
飛影「チッ・・・」
やっぱり土足で入るつもりだったのか、この人。
先手を打っておいてよかった・・・。
飛影を家に招き入れて、1階のリビングへ。
興味津々って感じでキョロキョロ辺りを見回す飛影をソファーに無理矢理座らせて、あたしはその横に少し間隔を空けて座る。
ジュースか何かあった方がいいかもだけど、面倒だから止めた。
橘花「で、ちゃんと説明してもらいましょうか。何でビデオデッキが必要なんだ?言わなきゃ絶対貸さないから」
飛影「・・・これだ」
マントの中から1本のビデオテープを取り出した。
橘花「何それ?」
飛影「・・・・・・」
橘花「飛影く〜ん?言わなきゃ分からないよ〜?」
飛影「・・・今日、コエンマから渡すように頼まれた幽助と鈴音への次の指令だ」
・・・・・・。
橘花「何で2人に渡さず勝手に見ようとしてんだよ」
心配なのか?自分も手助けしてやろーってことでか?
ツンデレなんですね、飛影君は(笑
飛影「貴様はバカか」
橘花「じゃあ、バカでも分かるようにちゃんと説明してよ」
飛影「指令なら俺ではなく、蔵馬に渡せばいいだろう」
橘花「あぁ、確かにその方がちゃんと届く可能性は高いですね・・・っと、つまりこーいうこと?
そのコエンマ?さんは何かしらの意図があって、飛影にそれを見せるために渡した?」
飛影「・・・かもしれんな」
橘花「で、蔵馬のとこで見たら何か言われるだろーし、桑原のところに行くなんて最初から考えられない、仕方ない残ったあたしのとこにしよう・・・ってことか」
飛影「フッ、頭の回転はいいようだな」
橘花「飛影君、1つ忠告しておくよ。そんなにあたしの機嫌損ねると、そのビデオ見せてもらえないと思えよ」
飛影「・・・、(汗」
やっと気付いたのか。
人のことバカバカ言えないじゃんホント・・・。
あたしは小さくため息をついて腰を上げる。
橘花「しょうがないから見せてやんよ。さっさとしないと学校に遅刻するからな」
ビデオを受け取ってテレビの下にあるデッキにセットする。
んで、テレビをつけて再生ボタンを押して再生っと。
またソファーに座り直して、再生された映像を見る。
画面に映ったのは例の如く、あのおしゃぶりの子供・・・。
浦飯や鈴音へ向けての指令だから、その2人に向けてコエンマは話す。
コエンマ『今回の任務は・・・1人の少女を救出することだ。その少女は人間ではない。しかし、あながちお前達と無関係という訳でもない。
その少女は骨爛村という今は村人のいない廃村のある屋敷に幽閉されている。霊界の使い羽達の情報で最近分かったのだ』
人間じゃないってことは、妖怪か何かかな?
っていうか、それが可愛い子だったら幽閉した奴許さない!
コエンマ『少女は〈氷女〉と呼ばれる妖怪の仲間で人間界では雪女、雪娘、雪童などとも呼ばれていてな、氷女はその身から美しい宝石を生み出すことが出来る・・・。
彼女が捕えられているのは、金儲けの為に心ない人間が無理矢理宝石を作らせようとしているからなのだ』
橘花「(・・・ん?こおりめ?)」
どこかで聞いたことがあるようなフレーズ・・・。
確か、去年・・・八つ手に飛影が聞いてた、よな?
飛影の方に視線を向けてちょっと驚いた。
だって、今のコエンマ?の言葉に目を見開いて驚いてたから。
橘花「?」
橘花「(どうしたんだろ・・・?)」
疑問に思いながらテープの内容を聞く。
コエンマ『その宝石の源となるのは・・・―――涙だ。
監禁しているのはこの男、垂金権造、宝石商、これでも人間だ』
妖怪かと思ったら人間かよ。この世の終わりみたいな顔してる人間、初めて見たよ、あたし。
っていうか、今〈涙〉って言った?言ったよな?
涙が宝石ってことは・・・女の子を泣かせてるってことだよな?
ハハハ、あたしの怒りがヒートアップしてきたよ。
コエンマ『元々あくどい手口で金儲けをしているが、この宝石を裏のルートでさばき、飛躍的にのし上がった人物だ』
使い羽達が送ってきた映像だ、って映し出されたのは1人の女の子。
その瞬間、隣に座ってた飛影が急に立ち上がった。
橘花「飛影?どーかした?」
何かさっきから様子がおかしい・・・。
もしかして、この氷女の子が飛影がずっと探してる子・・・?
コエンマ『彼女が監禁されているのは垂金の別荘の一室だ。呪符で結界を作り、出られなくしているのだろう。彼女を聞けば動かざるを得まい。
特に幽助、お前はそいつに借りもあるしな。娘の名は雪菜。―――飛影の妹だ』
橘花「!?」
え・・・?今、コエンマ様ってば何を仰いました?
妹?誰が誰の?
え?え?・・・Σええええぇぇぇ!?
そこでビデオは砂嵐になる。だから一応巻き戻しボタンをポチッとな。
橘花「・・・飛影、行くつもり、だよな?」
飛影「貴様には関係ない」
橘花「関係はあるよ」
そう言うと、飛影は微かに目を見開いて橘花を見る。
橘花「確かに妖怪だとか幽霊だとかに関わる気はないよ?関わりたくないって思ってる。だけど今回は関わらざるを得ない状況だろ。
だって、恩人でありお師匠様の妹ちゃんなんだから。何より、あんな可愛い子を幽閉してるなんて許せない。ボコボコにして海に沈めてやる!」
飛影「何があるか分からんのだぞ。それでもか?」
橘花「うん、それでもだよ。
あたし・・・まだ君に八つ手から助けてもらった恩返し出来てないし。だから、今度こそ本当に囮に使ってくれていいよ」
あたしがそう言ったら、飛影は一瞬ポカンとした顔になった。レア顔だな。
それですぐに微かに、本当に微かに微笑した。今まで見てきたひねた笑いじゃない、優しい笑顔。なんだ、そんな顔も出来るんじゃないか。
飛影「物好きな奴だ・・・」
巻き戻したビデオを飛影に渡して、また今度な、って言ってあたし達は別れる。
でも・・・
ホントに嫌な予感の正体は飛影だったのかな・・・?
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