泡沫の夢

□日常の帰還
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蔵馬「―――朱雀は生命力を力に変えた幽助に撃破されました。

これによって四聖獣は完全に消滅。虫笛も破壊した今、人間界が危険に冒されることはもうないでしょう」


コエンマ「うむ。ご苦労だったな」



妖魔街での対決が終わった翌日、コエンマは蔵馬からの報告を受けてやっと一息吐く。



コエンマ「幽助と鈴音、桑原の様子はどうなっとる?」


蔵馬「3人共、まだ眠っています。

幽助と桑原君は心配ないんですが、鈴音は人に霊力を送るという・・・慣れていないことをして熱を出しています」


コエンマ「・・・そうか」


蔵馬「そういえば・・・朱雀の部下と名乗っていた惨蛇という妖怪はどうなりましたか?」


コエンマ「奴は消えたよ」


蔵馬「?消えた?」


コエンマ「お前達が人間界へ戻った後、事後処理に霊界の特殊部隊を妖魔街へ向かわせた。

部隊が駆け付けた時には、もう奴の姿はそこになかった」


蔵馬「何者なんですか?」


コエンマ「・・・分からん。だが、奴があの西連寺橘花の先祖、鬼一こよりや鬼一の一族に執着しているとなると・・・またあの子の前に姿を現すかもしれん。

それが今日、明日でなければいいのだが・・・」


蔵馬「心配には及びませんよ」


コエンマ「?」


蔵馬「橘花は強い。それに今は、」



そこで軽く笑って彼は言葉を続ける。



蔵馬「今は、飛影がついていますから」











   ◇  ◇  ◇












橘花「昨日の今日で何なんですか〜」



1つ目のバス停で1人バスを待ってたら、何故か急に飛影が来たんだ。

あ、ちなみに肩の傷は蔵馬お手製、薬草入り塗り薬で結構癒えてたりします。



飛影「お前はその程度の強さで本当にいいと思っているのか?」


橘花「もうそういう話はいいって。あたし、もう2度と霊界だとか極悪妖怪とかに関わる気ないから」


飛影「お前がそのつもりでも妖怪達はそうじゃない。四聖獣を倒した一行として、お前や幽助達はこの1日で有名になったからな」


橘花「妖怪の間で有名人になっても嬉しくない」


飛影「朱雀がやったように、またお前の友達とやらが巻き込まれる可能性もある」


橘花「!」



薺達が・・・また、昨日みたいに怖い目に合わせられる?

あたしのせいで・・・?


スポーツバッグを持つ手に自然と力が入る。



橘花「それはイヤだ・・・」


飛影「巻き込まないでくれ、なんて頼み、妖怪に通用すると思うか?」


橘花「・・・・・・」


飛影「もう1度聞く。お前はその程度の強さで本当にいいと思っているのか?」


橘花「っ・・・」



飛影の赤い瞳が真っ直ぐあたしに向けられる。

飛影や蔵馬、惨蛇みたいにいい妖怪ばかりとは限らない。


薺達だけじゃなくて、響輝や颯汰、お父さん、お母さん、おじいちゃんやおばあちゃんが巻き込まれることだってあるかもしれない。

でも・・・



橘花「あたしが強くなっても・・・薺達を守れるわけじゃない。

昨日みたいに、あたしがいない時に襲われることだってあるかもしれないんだから・・・」


飛影「やはりお前はバカだな」


橘花「バカって・・・」


飛影「強くなって知らしめればいいだけだ」


橘花「え・・・?」


飛影「お前の知り合いを巻き込むと酷い目に合されるとな」


橘花「!」


飛影「そうすれば、襲おうと考える奴もいなくなる。・・・違うか?」


橘花「・・・違わない」



全部、飛影の言う通りだ。


あたしが妖怪達に引かれるぐらい強くなれば、誰も傷付かない。

大切な人達を守ることが出来る。



橘花「飛影・・・またあたしに修行をつけてくれる?」


飛影「最初からそのつもりだ。前にも言っただろう。お前が強くなれば―――」


橘花「八つ手みたいな状況で囮に使えそうだから、だよね」


飛影「フッ、そうだ」












   ◇  ◇  ◇












蔵馬「それじゃあ、俺はこれで」


コエンマ「ああ、ご苦労だったな。こちらも惨蛇という妖怪について調べておく」


蔵馬「はい」



彼はコエンマに一礼し、部屋を出ていく。

それを確認したコエンマは小さく息を吐き、倒れこむように椅子の背凭れに体を預けた。


そんな彼の頭の大部分を占めるのは―――・・・



コエンマ「呪われた鬼一の血脈は、やはりあの子に流れ込んでしまったのか・・・」


コエンマ「(あの惨蛇の封印が解けたのもそれが原因か・・・?)」







「―――憶えておけ・・・」




「お前達人間が俺の存在を忘れた頃、俺は復活する。こより、お前の血を通してな」




「地獄の門が開く瞬間をせいぜい見逃さぬようにするんだな」








コエンマ「っ・・・」


コエンマ「(もし親父がこのことに気付いたら、きっとあの子を・・・)」


コエンマ「それだけは何としても阻止せねば」






その呟きを聞く者は誰もいない。




彼はそっと瞳を閉じる。

〈彼女の秘密〉をその胸に刻みながら―――・・・







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