小説2

□カラオケ店
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『・・・・ば・し・す・ぎ―――――』

「「・・・・・・」」コクリ・・・

カチャ・・・

「「・・・お邪魔しまーす・・」」

部屋の前まで行くとちょうど音楽が終わったところ。
意を決して扉を開けたはいいが、なぜか腰をかがめ抜き足差し足で侵入する夏菜子。夏菜子の腰に手を当て全く同じ姿勢で後に続く詩織・・・

「・・・・フッ・・・」

熱唱直後で気持ちがハイになってたためか、それとも本性か・・
そのコミカルな動きの訪問者に
〈こそ泥かよ!〉
思わずツッコみたい衝動を何とか抑え、会長の顔になる。

「な・・・何ですか?あなたたちは?」

「え?えっと・・・私たちですか?」
「何だと思います?」

いきなり何の断りもなく入ってきて、当然に聞かれる質問。それにとんちんかんな質問で返す夏菜子と詩織。

そこに次に予約をしていた軽快な伴奏が流れ出す・・・

リモコンを取り一時停止で音楽を止めると生徒会長はソファーに腰を下ろす。

腕と足を組み下から二人を見上げる。熱唱してたのをおそらく見られた恥ずかしさなのか、訳の分からない湧き上がる高揚感を抑えるようにゆっくりと言葉を発する。

「で?私になにか用事でも?」

2人は顔を見つめると、そっちがしゃべりなさいよ!というようなジェスチャーをしあう。そのうち夏菜子が話かける。

「さっきの歌ってた顔・・・・今朝の集会より100倍あなたらしいと思う・・」

「な・・・あなたに私の何がわかるんですか?」

「そう言われると・・そうだよ・・・・ねえ?」

「ねえ・・・」


「「「・・・・・・」」」


部屋の中にしばらく沈黙が流れる。

(なんだろう?生徒会長なのに・・私よりいろんなこと出来るんだろうけど・・なんだろう? 不思議と守ってあげなきゃって・・・無理してるのが分かる!・・・え?なんだろ もっと近づきたい・・これは・・詩織と初めて会った感覚だ)

(あれ?なんか言い方がえらそう!威圧的だし声でかいし!・・・まぁ生徒会長だしいいんだけど・・・なんか文句言いたい!全然らしくないじゃん! あれ?ほとんど初対面なのに何でこんなこと思うんだろ?)

(なんなの?二人してズケズケと・・・けど・・・なんでかな?嫌な気がしない・・むしろ・・すごく安心する。名前くらいは知ってるけど・・この二人なら信じれる!・・って・・あれ?あたし何考えてるんだろう・・・)


続く沈黙・・・けれど三人ともなぜか少しづつ笑顔になっていた。

不思議とお互いの考えてることも、なんとなく想像がついていた。

「やっぱり・・名前で引き合うのかな?さっき歌ってたのって・・・あっ!私たちのこと知らないよね?」

「ううん 知ってる!夏菜子ちゃんと詩織ちゃんだよね」

「おー さすが生徒会長!夏菜子だけじゃなくて私も知ってるんだ」

「んー 去年からなんとなく気になってね だからさっき入って来た時、本当はすごくびっくりした」

「やっぱり!今の方が絶対いい顔してる。ねえ・・普段無理してない?あっ!今更関係ないじゃんとか言わないでね」

深く息を吐いた生徒会長・・彩夏は一瞬寂しそうな顔をした。しかし、頑張って笑顔を作ると二人にもソファーに座るように促した。

二人が腰掛けるのを待って彩夏は話し出す。

「あたし・・ね 今 ママと二人で住んでるの。パパは小さいころに死んじゃって・・でも、・・」

しばらく言葉に詰まったが、二人は黙って見守っていた。うつむいた彩夏は言葉をつなげる。

「・・・あたしはママの本当の子供じゃないから・・・ママに嫌われて捨てられたら一人きりになっちゃうから・・・だから・・嫌われないように頑張らないと・・・一人でも頑張らないと・・・」

「そんなわけないじゃん」

珍しく強い口調で詩織が口を挟む。

「嫌いだからって簡単に捨てるわけないじゃん!だいたい嫌いになるわけないじゃんよ!!」

「・・・あなたたちには・・分からないよ・・」

「分かるし!!私も・・夏菜子も本当の子供じゃないから・・・」

「え・・・?」
「へ・・・?なんで知ってるの?詩織が」

きょとんとしている夏菜子に詩織が説明する。

「前に夏菜子を部屋で待ってるときにお母さんに聞いたよ。私が本当の家族でいいなーみたいなこと言っちゃったらね。血はつながってなくても本当の家族だよって。詩織ちゃんもそうでしょって!」

「「・・・・」」

「だから・・きっと会長のママだって嫌いになんてならないよ!そんな気持ちでここまで育ててくれないと思う・・」

「確かに・・・そりゃしょっちゅう怒られるし、うざったいて思うこともあるけど・・大好きだから!・・・それにね、さっき一人って言ってたけど・・今朝の会長の挨拶で言ってた歌の続き もちろん知ってるよね? 倒れそうになった時は支えあえば大丈夫!って」

うつむいたまま、二人の話を聞く彩夏の眼にはうっすら涙が溜まっていた。
やっぱりこの二人は信頼できる・・一緒に支えあえるの?・・そう思った彩夏は思いを素直に口に出す。

「あの・・お願いがあるんだけど・・・」

「「なに?」なんでも!」

「・・あたしの・・友達になってくれませんか?」

顔を上げると同時に目から雫が頬をたれる・・・
それをみて夏菜子が答える。

「それは嫌だ!」

意外な返事に一瞬固まる彩夏と詩織。

「そんなのお願いされたくない!頼まれてなるもんじゃないよ!それに・・・もう会長・・・・彩夏のこと大好きだから・・逆に頼まれても離れてやんない!」

「うん!私も!」

「・・・うん!うん!・・・ありがとう・・離れないで・・・」

初めて心の壁が崩れた気がした。思わず二人に抱きつく。

「ちょっと暑苦しー!!」

文句を言う詩織の眼にも涙があふれていた。


「じゃ・・ちょっと行ってくるね!」

「えーー?どこに?いま離れないでって言った分なのに?」

目頭を押さえながら立ち上がる夏菜子に詩織が問いかける

「だって・・二部屋もいらないでしょ!」

部屋を出て受付に向かう夏菜子を見送りながら彩夏がつぶやく・・

「泣き顔、見られたくないのかな?・・」

ちょっとウケてる詩織に続いて話しかける。

「さっき夏菜子ちゃん言ってたよね・・名前で引き合うって。詩織ちゃんもそう思う?」

「うーん・・確かに私達の名前があのグループと一緒なのは偶然なのかは分からないけど・・引き合ったのは名前なんかじゃないと思う!」

「そうだよね!あたしもそう思う!いずれ分かる時が来るかもね!」

「だね!今は楽しみましょ!」


しばらくして夏菜子が戻ってくるなり叫ぶ。

「ねえねえ!さっき止めた曲一緒に歌おー」

「歌おー 私も気になってたー」


新しく店に入って来た女子高生らしき三人が通路を歩いている。

「ねー・・なに?この歌」

10分ほど前・・・二人が選択を考えた通路には《ココココーココッコッコー・・・ココココ!ココココ!・・・・》と意味不明な歌声と、楽しそうな笑い声が響いていた・・・・。


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