小説2

□カラオケ店
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「カラオケ久しぶりだね〜」

「ごめんね・・うちの用事が忙しくて・・・」

「ううん たまに来るからいいんだよ!」


バーチャルが発達し一時はほとんど見かけなくなったカラオケ店も、最近の再ブームの影響で小さいながらもこの街にも数件が営業されている。

表通りから一本奥の道に入り派手な赤い建物に入る。
メンバー認証受付で部屋を決めると、自販機で飲み物を購入し歩きだす。
平日の夕方前にも関わらず、そこそこの来店客がいるらしい。

やや照明を落とした通路を目的の部屋に向かって急ぐ。

「・・・見せろ ど根性〜・・・・」

防音壁に遮られながらも、ふと聞きなれたロック調の音楽が耳に入り夏菜子は思わず足を止める。

左後ろを歩いていた詩織も同時に足を止め、少しキョロキョロした後、左斜め前の部屋の一つを指さす。
スラっと伸びた綺麗な腕に一瞬見とれながらも、差し示された方向に目をやる。
中の見える小さなガラス窓。その中には満面の笑みで片手を振り上げ熱唱する生徒会長の姿があった。

意外性?好奇心?なんとも言えない気持ちでしばらく目を奪われ動けないでいると、後ろから詩織が声をかける。

「いこっか!」

「・・・あ・・うん・・」

はっと我に返り右方向に歩き出そうとする夏菜子を、しなやかな腕が引き留める。

「気になるんでしょ?」

左斜め前を見つめ笑顔で問いかける。

「うん!行っちゃおっか!」

考える間もなく即答する。後から考えれば赤の他人がいきなり乱入なんて失礼極まりない。

でも今の二人にはこの右か左かのY字路。どっちが正解かは最初から分かっていた。頭ではなく心が分かっていた。きっとあの笑顔を見た瞬間から・・・・。
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