小説

□シンプルなそれは(西野)
1ページ/2ページ

「今月、何回目や…。無駄な、形だけの、会合なんぞやりやがって…!」
疲れと苛立ちを表情と言葉に表しながら、西野はスーツを投げ捨てるように脱いで大きく息をついた。
先代の意向とは言え、極道のごの字も知らない元会長の娘婿が花菱の会長になるのは落胆でしかなかった。
今日も、サラリーマンが好むであろう『形式的な会合』の日で、いつものやり取りと野村の威圧感な指示を聞き流して過ごしていた。

「西野さん…今日もお疲れ様でした」
脱ぎ捨てられたスーツを拾いあげ、夢子が深く礼をした。
「おう」
「お風呂にされますか?お食事も、用意してありますので、どちらを先…」
「『新婚さん』か?っ、クク…ふっ…。そない可愛らしいこと言われたらなぁ、選ぶんは1つしか無いやろ」
先ほどの表情が解けたような顔を見せ、西野は夢子の腰を抱き寄せた。
「す、スーツ…をっ!ハンガーにかけますから、あの…」
「お〜おぉ。シワになったら大変やもんなぁ。よしよし。はよかけてくれなぁ」
西野は子どもに話しかけるように言葉を返して、一旦、夢子から腕を離した。

西野の孫でもおかしくないような年の夢子が、西野の女になったのはまだ間もない。
ある日、野村の気まぐれで幹部たちは『素人』を用意された。「たまにはこんなのもいいだろう。大して男も知らない女は自分の好きにやれるからな!高級ホステスみたいな女だと装飾品に余計な金もかかるしよ」
金にうるさい野村らしい言葉だった。経費削減、というやつか。
女に興味がないといえば嘘になるが、西野は花菱会の勢力をいかに維持し拡大するかといった策略を日々描いているわけで、それらと女を計りにかける気すらない。
しかし、選ばなければ後で野村の押しつけがましい恨み言があるのも見えている。
「ほな…。自分、こっち来ぃ」
その時1番近くにいた夢子の肩を抱き、彼女を選んだ。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ