小説

□業火を背にしても(水野)
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心の底から夢中になるような恋など知らずに生きていた。
と言っても女に興味がないわけではない。
むしろ逆で、そのうえ容姿に恵まれた水野には欠点が見当たらないような女がいくらでも寄ってくる。
気が向けば欲を重ね、ふとしたことで離れ、また気が向けば別の欲を重ねていた。

『昔気質の極道』なんて聞こえはいいが、器用にかわしたり裏工作なんてことはせず、いつだって一つの命を張っていた。
力でものを言わす。
そんな水野だからこそ、1人の女に入れ込むなどするわけはない。
深く愛を求めれば求めるほど、自分の稼業がかすんでしまう。自分の意味が、かすんでしまう…
心の隅では、そんな思いがあった。
はず……だった。


「水、野…さんっ…!」
「なんだ。もう…イキたいのか?ん…」
肌と肌を触れ合わせ、熱と欲が入り混じっていた。
彼女の切なげな甘い声と表情を楽しむように、水野は夢子と視線を合わせながら腰の動きを早めた。
それに呼応して夢子の息づかいは荒くなり、水野を受け入れているそこは一段ととろけながら彼を締め付ける。
水野も深い快楽を味わいながら達しようとしていた。半ば無意識にさらに腰の打ちつけを早める。
そして夢子の体が大きく反応したかと思えば、彼女は抑えようとする声を震わせて緩んだ表情をみせ果てた。
それを見届けたように水野も途切れ途切れに小さく声を震わせ、夢子の中へ想いを注ぎ込んだ。
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