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□へウン:君の1番
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「…怒るなよ」

「怒ってない。」

「…怒ってるじゃん」

「だから怒ってないってば。」


移動中、バンの一番後ろ。
ドンへとウニョクが座った席にだけつめたーい空気が漂っていた。

「おい、トゥギ。やっぱりあれ断った方が良かったんじゃないか?」

「そうは言ってもな…これも仕事だし仕方ないんだけど…」

ウニョクたちの前に座っていたイトゥクとヒチョルは後ろで痴話喧嘩をしている弟達を見てため息をついた。


「なぁ、ドンへってば…」

「何だよ。」

「…何でそんなに不機嫌なんだよ。」

「別に不機嫌じゃないし。いつも通りだよ。」

「じゃあなんでこっち見てくんないの?」

「何でウニョクの方見なきゃいけないの?そういう決まりでもあるの?」

「そうじゃないけど…」


ドンへの腕を掴んで訴えるウニョクと窓から一向に目を離さないドンへ。

何時もだったら

「ヒョクチェ、ねぇ見てこれ最近ハマってる曲でね、」

「なんだよ、お前眠くないの?」

「ヒョク眠い?眠いんだったら寝てていいよ!俺が手握っててあげる!」

「ん〜じゃあよろしく。」


とまぁウニョクにデレデレなドンへとそれを素直に喜べないウニョクが完成するのだが今日は全くの逆だ。
理由は明確である。



「あのベットシーンがまずかったんだな。」

「うん。あれはまずかったね。俺でも許せないし。」

そう、今日はSUPERJUNIORのリパッケージタイトルである【Lo siento】の撮影だったのだ。

もちろんシウォンが帰ってきてから初めて7人全員で活動できる曲だし、それぞれが気合いに満ち溢れていた。

撮影も順調に進んでいたのだが、ウニョクのシーンが少し過激過ぎたというかなんというか…


「あれは無理だもんな。セクシーすぎるもんな。俺には負けるけど。」

「うーんちょっとドンへの心の中には留まりきらなかったんだろうね。」


そう、曲の終盤、ウニョクが女性とベッドに倒れ込むというシーン。角度的にはキスをしているようにも見えるし、当然顔も近い。そしてウニョクを押し倒したり押し倒されたり、手を絡めあったりしたのだ。

そんなシーンを撮ることを知ってウニョクはドンへに内緒にしていた。何故ならそれを知ったドンへは確実に「は!?やだよ!!やだ俺!!それなら俺がする!!俺がヒョク押し倒したいし押し倒されたい!!」と言って聞かないことは明白だったからだ。

そしてドンへに内緒にしたまま今日が来て撮影をしていた。
ちょうどドンへはソロカットをしていたので今しかないと思ったのだ。

「うん、OK。一応確認しとこうか」

「はい、お願いします」

そして撮影が終わったあと映像の確認をしていると、後から冷たい目線を感じたウニョクが振り向いたら…


「ド、ドンヘ…」

「…何これどういうこと?」

そこには絶対零度の魚様が居たのだった。



「別にわざと内緒にしてた訳じゃなくて、知ったらドンへ悲しむかなぁと思って…」

「俺昔から言ってるよね?お前に隠し事されるのが一番嫌だって。なんで分かってくれないの?」

「お、お前だってあの人と手繋いだりキスするふりしたりするじゃん!」

「俺はちゃんと言ったもん。何処かの鰯みたいに隠したりしないし。あ、実は嬉しかったんでしょ?」

「〜っ、ドンへのパボ!!」



そう言って掴んでいた手を離すと窓の方を向いてしまったウニョク。ドンへは相変わらず窓の外を見たままで、前に座った2人は深いため息をついたのだった。




「じゃあ、明日も早いからちゃんと寝とけよ」

「おやすみ2人とも」


そのまま無言が続き同じマンションの前で降ろされ、イトゥクとヒチョルに別れを告げると、ドンへはさっさとマンションの部屋に向かってしまった。

ドンへの後ろ姿を見ながらウニョクはどうも納得がいかなかった。

ドンへは隠し事を嫌う。
自分の事は何でも話すし聞いてもないことまで話す。昨日の晩に何を食べたか、今日は何処そこに行ったか、最近好きな音楽や悩んでいること、自分が思っている事を全部ウニョクに言ってきた。

逆にウニョクはあまりそういうのを口にしない派で、どれだけ親しくても一定の線を引くのだ。
それがドンへにとっては理解出来ないらしく「ウニョクの事はなんでも知りたい。全部俺に話して」と今まで何度も言われてきたことだった。

別に今回の件も隠していた訳ではなく、話さなくてもいいと思ったから言わなかったのだ。
ドンへはすぐに言ってきたけど、言ったからといって何か起こる訳でもない。だって仕事だから。


自分だって最初に話を聞いた時、思い浮かんだのはドンへの事だった。
以前、PV撮影の時うっかり女優さんとキスしてしまった事を話したその夜は、全然眠れなかった。
帰りの車からずっとドンへは不機嫌で、家に帰った瞬間痛いぐらい抱きしめられた。


「ちょ、ドンへッ」

「なぁ、キスしたの?」


壁に押し付けられて動けなくて、暗闇でも分かるドンへの冷たい視線が怖くて目頭が熱くなるのが分かった。

「っ、何でそんなに怒るんだよぉ」

なんとか絞り出した声は情けないぐらいに震えていて、腕を掴んでいたドンへの力が少し抜けた。

「…俺が怒ってるのはキスした事じゃないよ、ヒョクが俺に黙ってたことが許せないの」

「だって、言ったら怒るだろ…」

「怒るけど、それでも嫌だ。隠さないで、俺に全部話して。」


「ヒョクチェの1番じゃないと嫌だ。」




「っドンへ!」


エレベーターが閉まりかける瞬間なんとか滑り込んで、ドンへを見ると、前みたいに冷たい目線でこちらを見つめていた。


「ドンへ…黙ってて、ごめん。」

「…」

「俺、お前が隠し事嫌がるの知ってたのに、言えなくて、ごめん。」

「…」

「謝るから、き、嫌わないで…」



口にしたと同時に涙が出て、思わず下を向くと慣れ親しんだ香りに包まれた。
痛いぐらいにギュウギュウ抱きしめてくる腕はいつもは嫌なのに今はそれさえも嬉しかった。


「…あのシーン見た時ほんと嫌になった」

「うん」

「ヒョクは俺のなのにって。でも言ってくれなかったヒョクにも腹が立ったんだ。」

「ごめんな」

「はぁほんと無理なんだけどどうしよう。俺明日から仕事できないかも。嫉妬で。」

「いやそこは頑張れよ。」

「無理だよ〜ヒョクチェどうしようほんと。どうしたらいいと思う?」


顔を上げたらさっきまでのドンへは居なくて、いつもの、優しい笑顔で見つめてくれるドンへが居てまた泣きそうになった。


「じゃあ…」

「うん」

「これから明日のリハーサルでもする?」


そういってドンへの首を引き寄せたら、また痛いぐらいに抱きしめられた。
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