Barcarole of Prisoners

□岸に寄る波 よるさへや
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"住之江の 岸に寄る波 よるさへや
夢の通ひ路 人目よくらむ"

それは、昔お城で見たような気がする、どこかの国の、遠い昔の歌。

岸辺による波につけて、愛しい人への想いを歌った歌。


夜までも、夢の中でさえも。
貴方は今日も、来てくださらない。





ソルティコ地方を街道沿いに南に進み、2人はソルティコの町に到着した。

「ああ、気持ちの良い風だ……」

エレナとホメロスは海岸へと降りた。
子どもたちが走り回っている。

「ジャスパー。お祈りしておきましょう? 旅の記録もこまめにつけておいた方がいいわ。記憶探しの旅なのだから」
「そうですね……では1度、教会へ向かいましょうか」

2人は教会に赴きお祈りをした。

「おや、デルカダールの天使さん。わざわざソルティコまで祈祷ですか?」
「今旅をしているのです、彼と」
「ああ、そうなのですね。彼とはどういった関係で?」
「私の騎士です。このご時世に旅は何かと危険ですので、身辺警護をしてくれてます。」
「それは頼もしいですね。どうぞお気をつけて。あなた方に、神の御加護のあらんことを」
「感謝します、神父さま」

ホメロスも軽く一礼した。

「さあ、ホメロス。どうしましょうか」
「そうですね……しかし、人助けをしろと言われましても……一体何をどうすればいいのか……」
「うーん……とりあえず聞き込みでもしてみる?」
「そうですね。情報を集めてみましょうか」

2人は街の入口付近にいる人たちから順番に話を聞いてみることにした。

「そういえば旅の方、噂話知ってます? デルカダールの将軍の」
「ホメロス将軍が国外追放されたって話」
「何があったのか知らねえ。国外追放なんて、余程悪いことしたんでしょうね」
「死罪よりはマシなんでしょうけど」
「そ、そうね……」

ここにはデルカダール兵も多いので、ホメロスの噂話をする者もいた。

「いいか、これから言うことは秘密だぞ。なんでもデルカダールの将軍ホメロスさまは魔物の手先だったそうだ。……ということは俺たちデルカダール兵は今まで魔物の命令を聞いてたってことになる。なんとも恐ろしい話だぜ……」

しかし、ホメロスは別に気にもとめてないようだった。

「ジャスパー。大丈夫?」
「大丈夫も何も、事実だ。それに…私はもうホメロスではありませんから。今は」
「そうね……」
「姫。復興の件ならば、ソルティコの領主にもお話してみてはどうでしょう」
「ああ、そうね。それからやっていきましょうか」

エレナはソルティコの領主、ジエーゴの元を訪れた。

「旦那様。ご友人のロウ様の娘様がお見えです」
「おう、なんでえ」
「ジエーゴさま、初めまして。エレナと申します。父とは親しくなさっていると聞きました。」
「へえ。ロウの娘はシスターなのか。そんなシスターがこんな剣しか能のない騎士に何用で? 」
「そうです、剣の才。それが必要なのです……」

エレナは自分がユグノアの復興を考えていることをジエーゴに話した。

「なるほど、あの国をもう一度、か。そりゃお嬢さん、なかなか大変だ。あの国の騎士は俺も幾人か知っているが、腕の立つ者も多かった。一夜にして滅んだと聞いて腰を抜かしたもんだ」
「そうだったのですね……」
「だが、その志は立派だ。もし、俺の力が必要ならいつでも貸すぞ。ああ、そうだ、デルカダールに居たんならグレイグの事は知ってるのか?」
「ええ、勿論。」
「今はうちの息子と世界を救う旅なんかしてるらしいなあ。知ってるか、そんなことは」
「いえ、貴方様の息子さんが一緒だとは……」
「今はシルビアってんだ。旅芸人なんかになってなあ」

ああ、シルビアさんのお父様なのね。
そう言われてみれば、ちょっと似てるかも。

エレナは心の中でそっとそう思った。



屋敷の外で、エレナはじっとホメロスを見た。

「何です? 」
「デルカダールとジエーゴ様って、どういう関係?」
「ああ、ジエーゴ殿は時々我が城に来て剣の指南をしていることもあるし……逆にデルカダールから修行に行く者も多い。グレイグもその1人だったのですよ。アイツの剣の腕はここで磨かれたもの……驚いたものです。私に一度も黒星を付けたことのなかったアイツが、修行から帰ってきた途端私を打ち負かした時は」

"お前に倒されるものの影に、己の姿を見るような気がした"

ホメロスの闇はそう言っていた。
きっとその頃から、少しずつ、ホメロスの中で不安や焦りはあったのだろう。

「大成長して帰ってきたのね、グレイグは」
「ええ……それに比べて、私は、」
「ストーップ!ジャスパー、考えるのストップ」
「??」
「あのね、人と比べるものじゃないの、努力っていうのは。今までの自分と比べるものなの!今までの私より強くなった!って思えたら、それでいいのよ。誰かと比べて~なんて考えちゃめっ! 分かった?」

ホメロスはそれを見て一瞬驚いた顔をしたが、クスッと笑った。

「姫……あなたと言う人は……面白いですね」
「な、何がおかしいのよう」
「いえ。ありがとうございます、姫。そうですよね、そうだ。昨日の自分より強くなれたら、それは成長ですものね、たしかに。人と比べる必要は無い……確かにそうだ」

2人は再び海岸をめざして街を歩いていた。そこへ、悲鳴が聞こえる。

「きゃー!」
「!? 何だ」
「海の方だわ、ジャスパー。行ってみましょう」
「ええ」

海岸へ降りると、飛沫を上げて大暴れしている一匹の魔物。

「海の大王、クラーゴン……」

クラーゴンはホメロスを一瞥すると雄叫びをあげた。

「ああ、そうだ。あの時……!」

ホメロスの頭に再び頭痛が走る。

「くっ……、」

片手で頭部を抑えながら、ホメロスは利き手で抜刀した。

「そうだ、お前は、あの時……ここで契約を結んだ……ふ、結局不履行のくせに……いや、それは私も同じか……」

ブォォォン

クラーゴンは標的をホメロスに定めた。
海岸で遊んでいた人達は命からがら逃げ始める。

「うわあ!?」

小さな子どもが砂浜に足を取られて転ぶ。エレナがそれを助けに砂浜を走った。

「リーフ!」
(任せろ!)
「わっ、わわっ!」

エレナは子どもを抱きあげるとリーフに乗せる。リーフは地を蹴って海岸と逆方向へと走り出した。






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